俺自身は何もやましい事はしていないはずなのだが、まるでいたいけな少女をいじめているようで、何故だか罪悪感を覚える。なんとか少女を落ち着かせるように、あるいは距離を取る為に両手で制す。

「い、いや、君は何の話をしてるんだ?」

「え? 風紀委員長様は風紀委員会からの刺客か何かで、美術部に何らかのペナルティが課されるっていうお話じゃないんですか?」

 その言葉に納得がいった。俺が風紀委員長だという事実も彼女の誤解に拍車をかけたようだ。

「確かに何か問題を起こしたのであれば、それなりの対処はするが、今日はその件で来たわけじゃない。実は、その、ごく個人的な事で……」

「そうなんですか? なあんだ、もう、びっくりしたなあ。びっくりぽんですよ」

 少女はあからさまに胸をなで下ろすと、人懐こそうに、にっと笑ってみせる。

「あ、私、星乃(ほしの)と言います。菜野花畑(なのはなばたけ)星乃(ほしの)

「なのはなばたけ……?」

「長いでしょ? おまけに噛みそうだって酷評で。だから『星乃』で良いですよ」

とは言われても、初対面の人間を下の名前で呼ぶような馴れ馴れしい真似ができるほどには、俺の心臓は強靭ではない。

「それでそれで、個人的な事というのは? はっ! もしや! 私に対する愛の告白とかですか? いやー参ったなあ。でも、私達まだ出逢ったばかりだし、お互いの事を知るために、まずはお友達からでいかがでしょう? ええ、是非ともお友達からで! えへえへ」

「盛り上がってるところ悪いが、まったく違う」

 きっぱり否定すると、少女はなぜだか残念そうに肩を落とす。

「……そうですか……それじゃあ一体どんなご用件でしょう? 借金のお申し込み?」

 つまらない冗談だ。俺は彼女の発言をスルーし、その顔をちらりと見やる。

「菜野花畑は――」

「星乃です! 星乃!」

 元気よく挙手しながら訂正された。 

「あ、星乃が気に入らないなら『ほしのん』とかでもいいですよ。むしろそっちの方が親しみやすくていいかも。風紀委員長様もご一緒に! せーの、ほしのーん!」

 ……やばいな。めんどくさいぞこいつ。