眉を寄せて困ったような。それでいて目を見開いて驚いたような。あるいはショックを受けているようにも見える。

「なんだその顔。『うまい』って褒めたら駄目なのか?」

 俺は咄嗟に誤魔化した。「うざい」ではなく「うまい」と言ったんだ、と。
 何故かそうしなければいけないような気がしたのだ。

 星乃はぱちぱちと瞬きした後

「おいしい? おいしいですか? よかった。母も喜びます。でも、おかずばっかり食べてちゃだめですよ。はい、おにぎりもどうぞ。たくさん食べて大きく育ってくださいね」

 先ほどまでの奇妙な表情を瞬時にひっこめると、笑顔を浮べて俺に重箱を差し出してきた。

 なんとか誤魔化せたようだ。密かに安堵の溜息を漏らす。先ほどの彼女の表情を思い返して、どうしてか少し胸が痛んだ。

 星乃が騒がしいのは確かだが「うざい」だなんて、流石に言い過ぎたかもしれない。こうして弁当までご馳走になっているってのに。

 これを食い終わったら、もう少しだけ塹壕作りに協力してやるか……。
 罪悪感を紛らわすようにおにぎりに手を伸ばした。