「いや、流石にそんなものをいただくわけには……」

「遠慮しないでください。これは、今日のお礼も兼ねてるので」

「お礼?」

「ほら、先輩はこうして花壇を作る手伝いをしてくださってるじゃないですか。だからせめてお昼ご飯くらいはご馳走させていただきたいなーと。ちょっとした賄賂的なアレですね」

 なるほど。労働の対価という事か。そう考えれば悪くないかもしれない。自分から賄賂とか言い出すのはそれを台無しにしてるが。

 それに、蓋の開けられた重箱には色とりどりのおかずが詰められ、食欲をそそる匂いまで漂ってきている。視覚と嗅覚からの暴力ともいえる誘惑に、俺の胃袋は限界に近づいていた。このままでは、また蛙が鳴きそうだ。

「こんな量、ひとりじゃ食べきれないし。お願いします先輩! 私を助けると思って! 先輩の男としての器と胃袋の大きさを見せ付けちゃってください!」

 言いながら星乃は拝むように顔の前で手を合わせる。心なしかその姿には必死さが滲み出ているような。

 その姿と弁当を見比べた後、結局俺は星乃の厚意に甘えさせてもらう事にした。誘惑に負けたとも言う。

「いただきます……なんだか遠足みたいだな」

「どうぞどうぞ。遠慮なくいただいちゃってください」

 渡された紙皿におかずを取る。菜の花みたいに黄色い卵焼き。

「まさか、この弁当って星乃の手作りか?」

「えっへん。それはもちろん、母上に作っていただきましたー!」

「自慢げに言うところじゃないだろ」

 呆れながらも卵焼きを一口齧る。うまい。どうやら星乃の母親は料理上手らしい。

「あ、もしかしてもしかして期待しました? ぴちぴち女子高生の私が作ったお弁当が食べられるって期待しました?」

「うざい」

 その途端、星乃の顔が奇妙に歪んだような気がした。