「はー、疲れました。蓮上先輩、ちょっと休憩にしませんか?」

 穴を掘り始めてどれくらい経っただろう。星乃が腰に手を当てながら上体を起こす。
 現在の穴の深さは俺の膝より少し上くらい。まだ完成には程遠い。

「あ、そうだ。私、何か冷たい飲み物でも買って――」

「それなら俺が行ってくる。君は休んでろ」

 さすがに体力のない女子にそこまで任せるわけにはいかない。俺もちょうど休みたいと思っていたところだったし、買い物係を引き受ける事にした。

 自動販売機で飲み物を買って戻ると、キャミソール姿の星乃が穴のふちに腰掛けていた。
 
 身体を動かし続けて暑くなったのか、ツナギの上半身を脱いで、腰のあたりで袖を結んでずり落ちないようにしている。

 ペットボトルを差し出すと、白くて細い腕をこちらに伸ばした。力仕事をするには頼りない腕だ。

「やったー、蓮上先輩優しい! 私があと十歳若ければ惚れてましたよ。摩天楼にバキューンですよ」

 十歳若けりゃおよそ六歳じゃないか。俺はロリコンじゃないぞ。

 軍手を脱いだ星乃は早速レモンティーのボトルを傾け美味そうに喉を鳴らす。

 俺も穴のふちに腰掛けながら、ペットボトルのキャップを回す。と、麦茶を口に含んだ途端、自分の腹から空腹を訴える情けない音が漏れる。
 まるで蛙の鳴き声のような。顔が熱くなるのがわかった。

「あれれー? 今、蛙の鳴き声みたいなのが聞こえましたよ? 先輩のお腹に住んでるのかなあ? 不思議だなあ」

 死者に鞭打つような事を言わないでくれ。余計に顔が熱くなる。こいつ実はドSなんじゃないのか?

「でも、そろそろお昼ですね。私もお腹すきました。お腹ぺこちゃんです」

 星乃は立ち上がり、近くの木陰に置いてあった白くて大きなトートバッグをごそごそと探ると、なにやらファンシーな風呂敷に包まれた箱のようなものを取り出して頭上に掲げた。

「てれってってー。実は今日は二人分のお弁当を持ってきたのです! な、なんだってー! 私って気がきくなあ。豪華重箱二段重ね! 上の段はおかずで、下の段はおにぎりでーす。あ、ウェットティッシュもあるのでご心配なく」

 穴まで戻ってきて包みを解くと、小ぶりの重箱を風呂敷の上に並べ出す。
 その様子に慌ててしまう。まさか弁当なんて用意しているとは。