穴を掘りながら、なんでこんな事になっているのかという疑問が頭の中を埋め尽くす。
てっきり例の少年像について何かわかるのでは、と期待していたのだが……現実はこうして花壇作成などという作業につき合わされている。どこで何が間違ったのか。
俺が煩悶している間にも、星乃は色々と話しかけてくる。
「先輩は、彼女さんとかいるんですか?」
「……その質問はプライベートに踏み込みすぎだ」
「あ、その反応はいないって事ですね? バレバレですよ? バレバレ。くくく」
くっ、こいつうざいな。大体、出会ってさほど時間が経ってない相手にする質問じゃないだろ。当たってるのが余計腹が立つ。
「そういう君はどうなんだ? 彼氏はいるのか?」
ちょっとした意趣返しのつもりで問うと
「もちろん絶賛募集中です!」
実に堂々とした答えが返ってくる。俺の仕返しも効果無いらしい。
「そうだ。先輩おすすめのステキ男子を紹介してくださいよ! かっこよくて冷静で、どんな問題事が起こっても『想定の範囲内です』とか言いながら眼鏡を指で押し上げて解決するような頭の良さそうな人を希望します! あ、でも最初はお友達からですよ。お友達から」
おまけにそんな図々しい要求まで。そういうやつが好みなのか?
「残念ながらそんな知り合いはいない。もしいるとすれば、真っ先にそいつに銅像の件を相談してるだろうな」
「ええー、風紀委員になら一人くらいいそうなのに」
「風紀委員にどんなイメージを抱いてるんだ。そんな事じゃ真実を知った時に幻滅するぞ」
まあいい。とりあえず花壇を作ればこの鬱陶しい会話からも解放されるはずだ。さっさと穴を掘って、こんな理不尽な労働からはおさらばだ。
そう思いながらシャベルで土をすくっては穴の外側に積み上げてゆく。その時、頭にふと些細な疑問がかすめた。
「なあ星乃」
「なんですか?」
「俺はガーデニングだとかに詳しくないから、よくわからないんだが……花壇って、土を耕せば済むものなんじゃないのか? なんで穴を掘るんだ?」
星乃は手を止めて身体を起こした。そのままスコップを勢いよく地面に突き立てると、腰に両手を当てて仁王立ち。
「くくく。ようやく気付きましたね。何を隠そう私達が作っているのはただの花壇じゃありません。なんと、『塹壕花壇』なんです。どうですか? びっくりしました?」