うっすらと朱に染まりかけた空の下、グラウンドでは相変わらず陸上部の練習の声が響く。
 それを横目で見ながら、校舎の角を曲がると、中庭の風景が飛び込んでくる。

 と、同時に

「あ、蓮上せんぱーい! こっちです! こっちこっち!」

 星乃の声が飛んできた。ぶんぶんと大きく手を振りながら、その存在をアピールするように。

「悪い。委員会の仕事に時間を取られてしまって」

「むしろベストタイミングですよ。ついさっき業者による設置作業が終わったところです」

 その言葉に顔を上向ける。そこには高い台座の上に立つ銅像。祖父の作った例の少年像だ。様々な過程を経て、今日、やっとこの場所に設置されたのだ。
 台座の下からは、俯いた少年像の顔がよく見える。その時、ふと、少年像と目が合ったような気がした。

 まさかな。

 自分の馬鹿げた妄想を振り払うようにゆっくりと頭を振ると、隣で同じように少年像に見入っていた星乃がこちらに目を向ける。

「そういえば先輩、約束してた物、持ってきてくれましたか?」

「ああ」

 俺はスマホを取り出して操作すると、写真を表示させて星乃に渡す。俺の幼い頃が写ったものだ。以前に彼女が見たいと言ったので、昔の写真をスマホのカメラで撮ってきたのだ。

 画像をスライドさせ、何枚かの写真を拡大させたりした後で

「……やっぱり」

 と呟く星乃。

「……何が『やっぱり』なんだ?」

 俺の疑問符を含んだ声に、星乃はスマホの画面を指し示してこちらに向ける。

「実は私、この少年像を目にした時、なぜか以前にどこかで目にしたような、そんなデジャヴに似た感覚を抱いたんです。初めて見たはずなのに。でも、その理由が今わかりました。先輩は気づきませんでしたか? この像は小さい頃の先輩の姿にそっくりだって。私は先輩の面影をこの像に感じたんです」

「え?」