俺は階段を駆け降りると、廊下を全力で走る。

 星乃に何も伝えられない。そんな自分がもどかしかった。

 やがて着いた先は放送室。ドアに手を掛けると勢い良く開ける。

 中では委員らしき人物が二人ほど雑談をしている様子だったが、突然の来客に驚いたのか、同じタイミングでこちらを振り向く。

 肩で息をしながらも、俺は放送委員になんとか告げる。

「ふ、風紀委員長の蓮上才蔵だ。こ、これから臨時の放送をするから、その……マイクを貸してくれないか?」

 風紀委員会や生徒会が、こうして臨時の放送をすることはままある。だからか、放送委員の二人は疑う事も無く、校内放送可能な準備をして、マイクを差し出してくれた。

 それを受け取り、強く握りしめる。一瞬躊躇ったが、俺は覚悟を決めて話しだす。

「生徒諸君、突然すまない。風紀委員長の蓮上才蔵だ。まずは、この放送が俺の個人的な問題解決のためのものだと断っておく」

 校内に俺の声が響く。こんなに緊張したのは受験の日以来だろうか。いや、それ以上かもしれない。一呼吸置くと、思い切って声を張り上げる。

「菜野花畑星乃! 校内にいるなら聞いてくれ! この間の件は謝る。俺が悪かった……でも、聞いてほしい。本音を言うと、君は、その、うざい。君自身が自覚しているように。こんな事を言うと貶しているように聞こえるかもしれない。でも俺は、俺は――」

 誰かのために一生懸命になれる星乃。笑顔の裏にいつもさみしさを隠している星乃。そんなあいつの事を俺は、俺は――

「そんな君の事が好きだ。それだけはわかってくれ。それと、もしも、こんな俺のことを許してくれるなら、また一緒に部活動をしよう。明日の放課後にいつもの場所で待ってる。以上――」

 言い終わる瞬間、ドアが勢いよくガラリと開いた。

 そこにいたのは、まぎれもなく菜野花畑星乃。

「せ、せ、先輩……」

 涙目の星乃は俺に向かって突進してくると、そのまま胸にしがみつく。

「うえええええん! ごめんなさあああい! 私ってば先輩の真意も知らずに、ひとりでいじけたりして……」

 盛大に泣き出した星乃を俺はなだめる。

「いや、俺のほうこそ悪かった。君を傷つけるような事を言ってしまって……」

「いいんです。先輩が、こんな私の事を好きって言ってくれるのなら、そんなの微々たる事です!」

「ちょっと待て! 抱きつくのはやめろ!」

 そんなやり取りを交わしている俺達に、放送委員は遠慮がちに囁く。

「あの……お取込み中失礼ですが……マイクの電源入りっぱなしですよ」