「何かの錠剤ですね。薬かな……?」

 見れば、小さなビニール袋に何粒かの錠剤が入っている。

 その途端、ショートカット女子が声を上げる。

「あ、そ、それは頭痛薬っす」

「それならどうしてこんなところに隠したの?」

 星乃の指摘にショートカットは黙り込む。自分でも無理な言い訳だと思ったのかもしれない。

「私の推測ですが、もしかしてこれは、何か危険な薬の一種じゃないでしょうか? 例えば、脱法ドラッグとか。それなら隠さなければならない理由にも説明がつきます」

「……そういえば――」

 それまでずっとなりゆきを見守っていた蜂谷先生が口を開く。

「男子トイレで具合の悪そうな生徒がいたと聞いたが、もしかしてあれは――」

 その言葉に俺も閃く。

「そうか! オーバードーズか! その錠剤が悪質なドラッグなら、あの男子生徒は、薬の過剰摂取で体調不良を引き起こしていたのかもしれない。けど、そんな理由なら保健室に行けるはずもないし、俺が蜂谷先生を呼びに行っている間に逃走したんだろう」

 俺の言葉に星乃は頷くと、ハンカチを取り出して慎重に錠剤の入った袋を包む。

「その可能性は高いですね。この錠剤も調べれば正体がわかるでしょうし。袋から指紋だってとれるだろうし。蜂谷先生、お手数ですが、後はお任せしていいですか?」

「……わかった。ここからは教師の領分だからな。君達は充分よくやってくれた」

 蜂谷先生は星乃からハンカチを受け取ると、問題の女子二人に向き直る。

「……君達、生徒手帳を出しなさい。一緒に来るんだ」

 それまで黙っていた二人は、諦めたように俯くと、各々生徒手帳を取り出した。

 そうして三人が美術室から出て行った後、星乃が躊躇いがちに手を出してくる。

「先輩、撮影係ありがとうございました。何かあれば、そのスマホも証拠として提出しますね」

「あ、ああ」

 そういえば録画したままだった。俺は停止アイコンを押すと、スマホを差し出す。

「先輩、もう無理して私に付き合ってくれなくても大丈夫ですよ。今までもひとりだったんだから、これからだってひとりでやれます」

「おい、なんでそんな事……」

「だって、うざい私と一緒にいても楽しくないですよね? 先輩もそうなんでしょ?」

「そんな事ない」

「嘘! うざい人と一緒にいても平気だなんて、そんな人いるわけないじゃないですか! だからもういいんです! さよなら!」

 星乃は俺の手からスマホをひっ掴むと、美術室から駆け出して行った。

「おい、待て!」

 急いで後を追うも、先日のように星乃の姿はどこにもなかった。

 なんて逃げ足の速い奴なんだ。

 この広い校内の中、一部屋ずつ調べて行くわけにもいかない。彼女の名前を叫んで回っても、一度俺に不信感を抱いた彼女が大人しく出てきてくれるかどうか。いや、それ以前に声が届くかどうか。

 ……こうなったら、あれしかないか。