鋭い制止の囁きに、俺は言いかけた言葉を飲み込む。

 直後に美術室のドアを開けるガラガラという音と共に、話し声が聞こえてきた。

「あの林檎、まだあるかなぁ」

「あるっしょ。あれだけ壊されても直ってるんだもん。どんな実直バカが作ってるんだろーね」     
      
 女子の声だ。やり取りを聞く限り二人。

 林檎。壊されても直ってる。その言葉から推測されるのは俺の作った林檎だ。ということは、「実直バカ」というのは俺の事なのか……⁉

 苦悶している間にも、星乃はロッカーの扉を少し開けて、スマホで外の様子を撮影している。

「あ、あったあった。やっぱりまた直ってるよ、この林檎」

 俺の位置からは見えないが、微かにかさりという音が聞こえた。

「よし、これで今日のノルマしゅーりょー。さっさと帰ろ」

 女子達がこちらに向かってくる足音が聞こえる。

 と、そこで星乃がロッカーから飛び出した。

「そこで止まって!」

 星乃の鋭い声に、女子達は立ち止まったようだ。俺も続いてロッカーから出る。

 そこにいたのは見覚えのある顔。確か星乃と同じクラスのショートカットと、ボブヘアーの女子。

 まさか彼女たちが林檎を壊したのか? だが、林檎は一見何の変哲もなく塑像台の上に鎮座している。それなら彼女たちはここで何を?

 二人の女子に目を向けると、面食らったように目を見開いている。やがてショートカット女子が口を開く。

「な、なんだ。菜野花畑さんじゃん。えっと、何か用?」

 平然を装ってはいるが、声が上ずっていたりと、動揺している様子がところどころに見られる。

「何の用かは、そっちが一番わかってるんじゃないの? 先輩、これお願いします」

「お、おう?」

 星乃は俺に録画モード中のスマホを押し付けると、美術室から駆け出して行った。