次の日、授業を終えた俺は猛ダッシュで美術室へと向かう。

 風紀委員長みずから廊下を走るなどという風紀を乱す行為をするのは気が引けたが、これもあの林檎のためなのだ。うまくいけば犯人が犯行に及ぶ瞬間に間に合うかもしれない。

 息を切らしながら美術室のドアを開ける。

 が、そこには誰もいなかった。

 林檎は⁉

 塑像台の上の布をめくると、そこには昨日修復した俺の林檎が、そのままの姿で鎮座していた。

 美術室内を見まわせど、不審な人物はいない。

 と、いうことは、昨日までの出来事を思い返せば、犯人はこれからこの林檎を破壊しにくる可能性がある……?

 それならその姿を拝ませて貰おうじゃないか。

 俺は美術室の隅、掃除用具の入った縦長のロッカーに近づく。この中にいれば、犯人が来たらすぐにわかるはずだ。

 そう考えながらロッカーの扉を開けると、そこにはすでに先客がいた。

「ぎゃあ! ……な、な、なんでここに先輩が⁉」

「星乃……⁉ 君こそなんでこんなところにいるんだ!」

 問われて正気に戻ったのか、ロッカーの中の星乃ははっとしたように瞳を瞬かせる。

「そ、それは、その、先輩の林檎が壊されてたので、犯人を確かめようと思って……」

 こいつ、俺と同じ事を考えていたらしい。

 けれど、そういう事情なら、星乃は林檎を壊した犯人ではない事になる。その事実に密かに安堵した。

 その後ですぐに気づく。そうだ。星乃に謝らなければ。

「星乃、この間は――」

「しっ! 先輩黙って。早くこの中に入ってください!」

 星乃は俺の言葉を遮ると、ぐいぐいとロッカーに押し込む。その後で自らも身体を滑り込ませると、内側から扉を閉める。

 とはいえ、ただでさえ狭いロッカーの中。二人も入れば窮屈極まりない。

「ちょっと先輩、私のボディがお留守だからって、変なとこ触らないでください……!」

 囁くように、それでも怒気をはらんだ声で星乃が抗議してくるので、俺も小声で応酬する。

「触ってない! 君が尻を押し付けてくるんだろ!」

「なんですかそれ! 人を痴女みたいに……!」

 痴漢冤罪ってこんなふうに起こるのかな。などと考えながら、俺は無罪を主張するために両手を上に上げた。

 薄暗いロッカーの中に沈黙が下りる。

「……先輩。私ってやっぱりうざいですか?」

 唐突に星乃が囁く。

「……ああ、うざい」

 俺は正直に答える。

「やっぱり……」

「でも、俺は――」

「先輩、静かに……! 誰か来ます!」