放課後。駄目もとで美術室を訪れる。

 もしかすると――なんて思ったが、やはり星乃の姿は無かった。

 教室の後ろのロッカーの上に目を向ける。そこには今回の件の元凶となった粘土の林檎が、塑像台の上に置かれている。
 こんな粘土作品ひとつのせいで、あんな事になるなんて……。
 後悔しながら塑像台に近づくと、上に掛かっている湿った布をめくる。と、そこで異常に気づいた。

 俺の作った林檎が割れている。

 正確には、硬貨投入口から指を突っ込んで、そのまま無理やり左右に引っ張ったように、明らかに人為的な無残な割れ方をしていた。

 ――なんだこれ。どういう事だ?

 隣に置かれた星乃の塑像台の布をめくると、そこには昨日と変わりない粘土の林檎。
 そこでぱっと浮かんだのは星乃の顔。
 まさか――まさか彼女がやったのか……? 「うざい」と言われた報復のために。

 頭を振ってその考えを即時に脳から追い出す。

 いや、星乃がこんな事をするはずがない。「うざい」と言われるたびにこんな陰湿な嫌がらせをするくらいなら、違った意味でぼっちになっているだろう。それに、赤坂だって星乃に対して「うざい」と言っていたし。他人からは「うざい」と言われ慣れていたはずだ。
 それなら一体誰がこんなことを?

 ……考えてもわからない。俺はくしゃくしゃと頭を掻く。

 そんな事をしても林檎が元通りになるはずもなく。とにかくこの惨状をなんとかしよう。
 もしかしたらこの後、星乃が部活動のためにここにくるかもしれないし。そのときは誠心誠意謝ろう。

 ……とは思ってみたものの、結局林檎の修復作業が終わっても、星乃は美術室に現れなかった。