星乃は少しの間無言だったが、やがて目を伏せる。

「……蓮上先輩。私、勘違いしてたみたいです。先輩が私の事『うざくない』とか『個性的なだけ』って言ってくれたから、調子に乗ってました。でも、やっぱり私ってうざいですよね……ごめんなさい……ごめんなさいごめんなさいごめんなさい……」

 たちまちその瞳から涙があふれ頬を伝う。
 次々とぽろぽろ溢れる雫を、星乃は袖で拭う。

「い、いや、違う、そうじゃなくて……!」

 言葉を捜し惑う俺に、星乃は続ける。

「……もう無理にフォローしてくれなくても大丈夫です。うざい私はいなくなるので。先輩、少しの間だけでも仲良くしてくれて嬉しかったです。ありがとうございました」

 言うなり、星乃は自分のカバンを引っ掴む。俺は咄嗟にその手を掴もうとするも、すんでのところで空を切る。

「待て! 星乃!」

 俺の制止の声も虚しく、星乃は美術室から走り出て行ってしまった。
 慌てて後を追うも、廊下にはすでに彼女の姿はない。
 無意識とはいえ、また彼女が最も傷つくであろう言葉を口にしてしまった。俺だけは、何があっても彼女の味方でいるつもりだったのに。それがあんな不格好な林檎のせいで、取り返しのつかない事になってしまった。

 ああ、俺は何て馬鹿なんだ!