「それでは今日は、粘土で林檎を作りたいと思いまーす。ビバ・アップル!」
部活動初日、放課後の美術室で、星乃は拳を振り上げながらテンション高く宣言する。どうでもいいが「ビバ」はイタリア語だが、「アップル」は……もういいか。
先生は職員会議で来ておらず、赤坂もいない。あいつはまだ「朝練」とやらをやってるんだろうか?
「あ、あと、今日はこの粘土を使いたいと思いまーす」
星乃は鞄の中からがさごそとクラフト用紙の包みを取り出す。
包みの中には粘土が入っていた。普段使う水粘土とは違う、茶色ががった色の粘土。
「てれってってー。テラコッタ用の粘土です。これで作った林檎をバリバリ焼いちゃいます」
「テラコッタって、確か素焼きの陶器だろ? バリバリ焼くって言ったって、窯はどうするんだ? まさか焼却炉でも使うのか?」
「そこは抜かりありません。駅の近くの陶芸教室で、このテラコッタ専用粘土を購入する代わりに、窯を使わせてもらえるよう交渉したんです。偉いでしょ? えっへん」
それはまた準備のいいことで。
「なあ星乃。どうせ陶器にするなら林檎型の貯金箱を作りたいんだが」
俺は先生から貰った石膏の林檎を手本にしながら作ることにした。
クオリティは段違いだが、だからといって、歪んだボールに爪楊枝が刺さっている謎物体を作るのも気が乗らない。ならば貯金箱として活用したいと思いついたのだ。
「それなら、専用のワイヤーで林檎を半分に割って、中身の粘土をくりぬいて空洞を作らないといけませんね。あと、硬貨の投入口も。それができたら元通りくっつけます。ぐーぐー」
うーん。結構めんどくさいんだな。
ていうか、こいつまだ俺が貰った先生の林檎を諦めてないんだな。語尾が腹の音になってる。
そう思いながらも、言われたとおりに思い切ってワイヤーで林檎を真っ二つに割り、ヘラで中身をくり抜いてゆく。
「ぐーぐー」
硬貨の投入口を作って、割った林檎を再度くっつければ、貯金箱の完成だ。
その間にも星乃の口真似空腹音は続く。
「ぐーぐー」
「いい加減うざいぞ」
自分で言った直後に「しまった」と思った。咄嗟に星乃の顔を見る。
彼女の顔が奇妙に歪んでいる。
眉を寄せて困ったような。それでいて目を見開いて驚いたような。あるいはショックを受けているような。
あの時と同じだ。
俺が初めて彼女に「うざい」と言ったあの時と。
部活動初日、放課後の美術室で、星乃は拳を振り上げながらテンション高く宣言する。どうでもいいが「ビバ」はイタリア語だが、「アップル」は……もういいか。
先生は職員会議で来ておらず、赤坂もいない。あいつはまだ「朝練」とやらをやってるんだろうか?
「あ、あと、今日はこの粘土を使いたいと思いまーす」
星乃は鞄の中からがさごそとクラフト用紙の包みを取り出す。
包みの中には粘土が入っていた。普段使う水粘土とは違う、茶色ががった色の粘土。
「てれってってー。テラコッタ用の粘土です。これで作った林檎をバリバリ焼いちゃいます」
「テラコッタって、確か素焼きの陶器だろ? バリバリ焼くって言ったって、窯はどうするんだ? まさか焼却炉でも使うのか?」
「そこは抜かりありません。駅の近くの陶芸教室で、このテラコッタ専用粘土を購入する代わりに、窯を使わせてもらえるよう交渉したんです。偉いでしょ? えっへん」
それはまた準備のいいことで。
「なあ星乃。どうせ陶器にするなら林檎型の貯金箱を作りたいんだが」
俺は先生から貰った石膏の林檎を手本にしながら作ることにした。
クオリティは段違いだが、だからといって、歪んだボールに爪楊枝が刺さっている謎物体を作るのも気が乗らない。ならば貯金箱として活用したいと思いついたのだ。
「それなら、専用のワイヤーで林檎を半分に割って、中身の粘土をくりぬいて空洞を作らないといけませんね。あと、硬貨の投入口も。それができたら元通りくっつけます。ぐーぐー」
うーん。結構めんどくさいんだな。
ていうか、こいつまだ俺が貰った先生の林檎を諦めてないんだな。語尾が腹の音になってる。
そう思いながらも、言われたとおりに思い切ってワイヤーで林檎を真っ二つに割り、ヘラで中身をくり抜いてゆく。
「ぐーぐー」
硬貨の投入口を作って、割った林檎を再度くっつければ、貯金箱の完成だ。
その間にも星乃の口真似空腹音は続く。
「ぐーぐー」
「いい加減うざいぞ」
自分で言った直後に「しまった」と思った。咄嗟に星乃の顔を見る。
彼女の顔が奇妙に歪んでいる。
眉を寄せて困ったような。それでいて目を見開いて驚いたような。あるいはショックを受けているような。
あの時と同じだ。
俺が初めて彼女に「うざい」と言ったあの時と。