確認するように先生に目を向けると、肯定するように彼は頷いた。

 俺達のためにわざわざ時間を割いて作ってくれたのだ。さりげなく身に着けていても他の教師に目を付けられる事の無い、それでいて蜂谷先生が目印として認識できるようなものを。その心遣いに温かなものが胸にこみ上げる。

「先生、ありがとうございます! 私、絶対大切にします! 片時も身に離さず過ごす所存です! もちろん、お風呂に入る時も、寝る時も!」

 星乃が深くお辞儀したので、俺も慌ててそれに倣う。

「……顔を上げてくれ。元はといえば俺が原因だからな。君達は俺のために髪まで染めてきてくれた。周囲からの反応も気にせずに。君達にそんな無理をさせるよりも、俺が君達に何かするべきだと思ったんだ」

 ああ、そうか。蜂谷先生ってこういう人なのか。小鳥遊先輩や赤坂が慕っていた理由がなんとなくわかった気がする。

 感慨深い思いでいると、赤坂が「はーい」と手を上げる。

「せっかくだから今日は新入部員歓迎会って事で、どっかファミレスにでも行ってぱーっとやりませんかー?」

「あ、それなら駅ビルの中のカフェに行きましょうよ! 小倉クリームタワーパンケーキ抹茶アイスマシマシで! きっと気に入りますよ!」

「先生。星乃の言う事は真に受けないほうがいいですよ。想像以上の代物ですから」

「蓮上先輩ひどーい。あれはグレープフルーツジュースと組み合わせると永久に食べられる素晴らしい食べ物だって説明したじゃないですか!」

 そんな俺達のやりとりを、微かな笑みを浮かべながら先生は聞いている。

 これで部員は三人となり、美術部が廃部になる心配はなくなった。星野への恩は返した事になるが、今はそれよりも俺自身が美術部に対する意識が変化している事に気づいていた。

 この面々で絵を描いたり、何かを作ったりするのも悪くない。最初に描くのは――そう、先生の似顔絵なんていいかもしれない。いや、先生だけじゃない。星乃や赤坂。みんなで似顔絵を描き合って、先生に知ってもらうのだ。先生自身の顔を。俺達の顔を。

 放課後の緩やかな空気の中で、個性的な美術部の面々に囲まれながら、その賑やかでいながらも心地良い時間に浸る。

 こうして俺達は目的を達成し、部活動は始まったのだった。