無事に髪を元の色に戻した翌日。今日こそは、という思いで放課後を迎えると同時に、俺と星乃は美術室に向かっていた。雪夜からは「あの尖った前衛芸術展はもう終わり?」などと何故か残念がられたが。

 美術室に入ると、そこには既に蜂谷先生の姿が。まるで俺達を待っていたかのように。

「……菜野花畑星乃と蓮上才蔵」

「は、はい」

 慌てて先生の元へ行くと、それぞれ何かを差し出された。

「……これを受け取ってもらえないか? 気に入ってくれると良いんだが」

 反射的に両手を出して受け取ると、それはビー玉より少し大きいくらいの直径のピンバッチ。円形の金属のフレーム内にクリアな素材が収まっている。薄さはニミリほどだろうか。中身は葉のような緑色の台座の上に、白い蓮の花が咲いているようなデザインだ。

 一方の星乃といえば、星の形のモチーフが二つ連なったヘアピンだった。同じく金属製のフレームの中身はクリアな素材でできていて、黄色からオレンジへとグラデーションがかかっている。

「わあ、かわいい! これ、ほんとに頂いちゃっていいんですか?」

 はしゃぐ星乃と戸惑う俺に、先生は告げる。

「……星乃の星に蓮上の蓮。君達の名前と同じだ。菜野花畑は髪に、蓮上は制服の上着のポケットにでも付けていて欲しい。それで他の生徒と見分けられるだろうから」

 言われた通りに身に着けると、先生が微かに口角を上げた気がした。

「でも、俺達の名前にぴったりな小物がよく見つかりましたね。それも一日で」

「……それは――」

 言いかけた時、がらがらと勢いよくドアの開く音がして、赤坂が入ってきた。俺と星乃を見てにやりと笑う。

「お、早速つけてるな」

 そのまま俺達のまわりをぐるぐるとまわると、観察するように上から下まで眺めまわす。

「いい感じじゃねえか。そのピンバッジにヘアピン。ま、当然だろうけどな。お前ら先生に感謝しろよ。昨日あれから手芸店に行ってレジンの材料を揃えてまで作ってくれたんだからな」

「え?」

 俺と星乃は顔を見合わせる。

 それじゃあ、俺のこのピンバッジも、星乃のヘアピンも先生の手作りだと?