「お前らは馬鹿か⁉」

 翌日の放課後、部活動のために美術室を訪れた俺と星乃は赤坂に説教されていた。床に正座させられて。

「だ、だって、こうでもしないと蜂谷先生が私達を認識できないと思って……一応私の苗字みたいな菜の花っぽい色を意識したんですけど……」

 星乃は言い訳しながら毛先を指でいじる。

「第一、赤坂さんだって髪の毛を染めてるじゃないか」

 隣で同じように正座させられている俺も抗議の声を上げる。

「あたしの髪色は地毛だっていっただろ!」

「えっ、それって本当だったんですか⁉」

「ま、学校に証明書は出してねえからな。知ってるのは蜂谷先生くらい。それもあって黒く染めたりしねえんだよ」

「えっ、ずるーい! そういう情報は私達にも教えてくださいよ!」

「だから前にも言っただろ! お前らが信じなかっただけで!」

 星乃と赤坂が言い合ってると、ドアの開く音がした。
 入ってきたのは蜂谷先生。俺と星乃を見て暫く無言で立ち止る。ようやく出てきた言葉は

「……二人ともどうしたんだ? その頭は」

「先生、聞いてください! 私達、先生がひとめで私達の事を認識できるようにって考えて、髪の毛を染めたんです! でも、赤坂先輩が怒るんですよ!」

 先生に俺達の存在を瞬時に認識して貰えるようにと考え出した方法。それは赤坂のように派手な色で髪の毛を染める事だった。ちなみに星乃は金。俺は若草のように鮮やかなグリーン。

 そう伝えると、先生は暫く考えるように押し黙った。

「……君達の気持ちは嬉しいが……さすがにやりすぎなのでは……? 担任の教師には何も言われなかったのか?」

 俺は思わず俯く。

「生徒指導室に呼ばれてちょっとした小言を……特に俺は風紀委員長だから、他者の模範になるようにって」

「……親御さんには?」

 星乃は気まずそうに頬をかく。

「ええと……私はすっごく怒られました。すぐ元の色に戻せって……」

「俺も危うく丸刈りにされそうに……」

「……そこまでか」

 先生は頬に手をあて、暫く考え込むような素振りを見せた後

「……今日は二人とも帰るんだ。そしてすぐに髪の色を元に戻してくるように。それまでは部活動は許可できない」

「え? そ、そんな……! 髪色くらい一瞬で戻せますよ。今日くらいは許してください! 私、高校生活初の正式部活動をすっごく楽しみにしてきたんですから! 昨日だって夜しか眠れなかったし!」

「……いいや、これは勝手に先走った事に対してのペナルティだ。二人とも今日の部活動は禁止。そのかわり、俺も二人を判別できるような案を明日までに考えておこう」

 と宣言すると、容赦なく俺と星乃を追い出してしまった。