謝るって、何を?

 それを受け止めるように、先生は俺達を見回す。

「……今まで、俺の身勝手に振り回させてしまった事を。言っただろう? 俺は相貌失認でも画家という存在に見苦しくしがみついていたと。だから真実を隠すために菜野花畑達の入部を断った。赤坂にも随分と無理をさせてしまって。あげくの果てには絵を描く事も教師も辞めるだなんて子供じみた事を言い出して……全て自分を守るための我儘だ。そんなくだらない事に付き合わせてしまって、本当にすまなかった」 

 先生はオブジェの乗った塑像台の上に手を置く。

「……これに着彩したのは、その過去と決別したかったからだ。未完成だったこれを、一つの作品として完成させれば、俺の未練も断ち切れるんじゃないかと思って」

 それって、どういう意味だ……? まさか……まさか、先生は……。

「……決別って、どういう事ですか?」

 自分の声が乾いているような気がした。これ以上聞くのが怖い。でも、俺は尋ねずにはいられなかった。

「未練を断ち切るって? それってもしかして、先生は絵を描く事や教師である事から離れようとしているって意味ですか……? だから、その決意の証としてこのオブジェを作ったって事ですか?」

 そしてそれを改めて宣言するために俺達を呼び出した……?

 星乃や赤坂は、驚いたように先生を見つめる。

「……そうじゃない」

 先生は否定の言葉と共に首を振った。

「……決別したかったのは、絵を描きたくて仕方のないくせに、それを諦めようとしていたひねくれた自分からだ。今思えば、俺は心の底では、ずっと芸術に関わる事を諦めきれていなかった。ただ、臆病になっていた。肖像画を描けなくなった俺が、他に出来る事なんてあるだろうかと疑心にとらわれていた。だが蓮上、いつか君と菜野花畑が粘土の林檎を持って尋ねてきた日、君は俺の作った林檎を見て腹を鳴らしただろう? あの時、本当に嬉しかった」

「え?」