「――だから先生、辞めるなんて考え直してくれよ!」

 放課後。美術準備室のドアを開けた途端、少女の叫ぶような声が響く。小柄な体躯に燃えるような茜色の髪の毛。赤坂だ。俺達に気づいて鋭い視線を投げつける。

「何の用だよお前ら! あんな事しておきながら、どの面下げてここに来てんだ!」

 赤坂が俺の襟元に掴みかかる。怒りをはらんだ声と共に。
 彼女がそう思うのも無理もない。俺は反論せずにされるがままになる。

「……やめるんだ赤坂。彼らには関係ないだろう?」

 蜂谷先生がなだめるように俺と赤坂の間に入るも、赤坂は手を離さない。

「でも、こいつらのせいで……!」

「……あれはただのきっかけにすぎない。むしろ俺がもっと早く決断するべきだったんだ。それを今まで誤魔化し続けていただけ。だから赤坂、その手を離すんだ」

 けれど、赤坂は手を離す事なくこちらを睨みつけたまま。
 思わず気まずくなって目を伏せる。

「すみません。恥知らずにも顔を出してしまって。でも、俺達はあの日の事をどうしても謝りたくて……それと、退職届の撤回をお願いしたくて」

「今更遅えんだよ! お前らのせいで先生は、先生は……!」

 赤坂は怒りを抑えきれないといった様子でなおも責める。そうされながらも、俺は思い切って顔を上げ、室内に目を走らせていた。星乃の言葉を確かめるために。

 問題の塑像台は以前と同じ場所にあった。布を掛けられたまま。という事は、先生は――

 その時、揉めている俺達三人の横をすり抜けて、星乃が素早く塑像台に近づくと、上にかけられた布を捲り、さっと取り去ってしまった。