「え?」

 先生が退職届を……? 確かにあの肖像画の秘密を暴いた日、先生は「教師を辞める」と言っていた。けれど、まさか本当に……?

「バカッ! バカッ! なんであんな事したんだよ! お前らがあんな事しなけりゃ先生だって……! あたしはお前らの事ぜってー許さねえからな! お前らがこの学校から消えろ! どっかに行っちまえ!」

 稚拙な表現が、逆に彼女の本心と混乱を表しているようだ。怒鳴りながらも微かに震える声。怒りの裏に隠れた哀しみ。

「もしも先生がほんとにこの学校を辞めたりなんかしたら、タダじゃおかねえからな! 覚悟しとけよ!」

 赤坂はそう叫ぶと踵を返し、床に転がったハンバーグになど気づかないように踏み潰すと、どこかへ行ってしまった。

 彼女も何かに当たらないとやっていけないのかもしれない。それが先生の秘密を暴いた俺達に向かうのも自然だと言えよう。

 重苦しい空気の中で、俺と星乃はぶちまけられた弁当を片付ける。

 先生が学校を辞めてしまうかもしれない。しかもその原因は俺達にあるのだ。

「先輩、髪にお米がついてますよ」

 星乃はハンカチを取り出すと、俺の髪に当てる。俺は反射的にその腕を掴む。

「星乃。やっぱり放課後に蜂谷先生のところに行こうと思う」

「え?」

 瞬きする星乃に、俺は自分の考えを告げる。

「謝るのは勿論だが、退職届の提出を撤回してもらうために」

「それなら、私も行きます。私だって、先生に辞めて欲しくなんかありません」

 俺達はその意思を確認するように、互いに頷いた。