俺の言葉に、星乃は瞳を瞬かせる。意味が把握できないとでも言うように。

「謝るって、どういう事ですか? どうして先輩が?」

「ほら、あの人の事情を知りながら、それでも絵を描いてくれだなんて……あれは俺の本心だが、それでも他に言いようはあったはずだ。なのに、あんな失礼な言い方を……絵を描けなくて一番苦しんでいるのは先生のはずなのに」

 あの時は、取り乱す星乃をどうにかしたくて、蜂谷先生を引き留めるために滅茶苦茶な言葉を並べ立ててしまった。

 腕が無くなったわけでもないなら絵を描けだなんて。「足があるんだから、暗闇をあてもなく歩き続けろ」と言っているようなものだ。

「だが……先生は話を聞いてくれるだろうか?」

 今更謝っても許される事ではないかもしれない。そもそも謝罪するという行為自体が、自分の抱えている罪悪感から逃れるための自己満足なのかもしれない。それでも俺にできる何かがしたかった。

「……先輩、それじゃあ放課後になったら、一緒に蜂谷先生のところに行きませんか? 私も謝りたいんです。だって、あの時私があの秘密を暴いたりしなければ、先生は何もかもをやめるだなんて言い出さなかったかもしれないんですから……」

 星乃も落ち込んでいるようだ。なにしろ蜂谷先生にとって一番隠しておきたかった真実を明らかにしてしまったのだから。それでも彼女は現実と向かい合おうとしている。俺よりつらいだろうに。
 時折遠くから生徒達の喧噪が聞こえる。そんな中、俺達だけがどこか別の空間に取り残されたようだ。
 沈黙を打ち破るように、星乃はぽつりと口を開いた。

「……それに私、気になっている事があって……」