星乃を支えるように、なんとか美術準備室から連れ出した俺は、呆然としたままドアの前に突っ立っていた。同じように追い出された赤坂はといえば、俺達に冷たい視線を向けると、無言でどこかへ行ってしまった。
結局のところ、俺の言葉は先生には届かなかったんだろうか。当たり前だよな。
先生の苦悩も知らなかった一介の生徒である俺が、偉そうに説教じみた事を言ったって、説得力なんてあるわけない。でも、このままじゃ、先生は……いや、星乃は……。
「……私が先生の秘密を言い当てたから?」
唐突に、星乃が俺の胸に顔をうずめたまま呟く。
「だから先生は絵を描くのをやめるの? 私が先生の人生を台無しにしてしまうの? それなら何も言わなければよかった! 何も知らないふりをしていればよかった! 私の言った事が全部間違っていたらいいのに! 先生がすべて否定してくれたらいいのに! 何事もなかったように似顔絵を描いて、すべて私の勘違いだって証明してくれたらいいのに! ――ねえ、先輩、そう思いませんか⁉ 蓮上先輩!」
最後のほうは嗚咽混じりに、星乃は後悔の声を漏らす。今まで堪えていたものが爆発したかのごとく。
人の気配のない廊下に、星乃のすすり泣く声が響く。
俺はどうしたら良いのかわからなかった。泣いている女の子の慰め方なんて知らない。何をしたらいい? どうすれば星乃は泣き止んでくれる?
どうしようもなくて、そっと星乃の髪に触れる。繊細なガラス細工を扱うように、その表面を撫でる。ガラスとは違って柔らかなその髪を。
途方に暮れながら見上げた美術準備室のドアは、全てのものを拒絶するように閉まったままだった。

