「でも、そういう事情なら美術の先生に聞いたほうが良かったんじゃないですか? 私なんかよりずっと芸術に詳しいはずだし。絵も上手いし、かっこいいし」

 美術教師がかっこいい事と、この件に何の関係があるというのか。

「美術教師にはとっくに相談したさ。けど、話をした時点でわからないと言われてしまったんだ。だからこうして他の奴を頼ってる」

「そんなあ。先生がわからなかった事が私にわかるわけないじゃないですか。どこの天才ですか。世界文化賞受賞しちゃうレベルですよ」

 世界文化賞といえば、芸術分野におけるノーベル賞とも言える賞じゃないか。こいつは美術教師をやけに評価するんだな。
 そんなに尊敬してるのか? 俺は相談事を断られた時点で失望してさえいるのだが。
 それでも俺の頼みごとを引き受ける気になったのか、星乃は再度ゆっくりと像の周りを歩く。まるで手がかりを探すように。自身の左目の下のあたりに人差し指を当てながら。

 像のバランスは狂っているのかもしれないが、確かに細部の作りこみはしっかりしている。それは俺も感じていた。
  だからこそ不思議なのだ。細部にまで拘っていながら、どうしてこんな不格好なものができてしまったのかと。
 と、星乃はおもむろに芝生に覆われた地面に両手と両膝をつけると、下から像を見上げる。

「……君はなんなんだ? そうやって地面に這いつくばるのが趣味なのか?」

「いえ、像の見方を変えたら、何かわかるんじゃないかなーと思って……むむむ」

 なおも像を覗き込むように頭を地面すれすれまで下げる。反面腰の位置は高くなり……。

「パンツ見えてるぞ」

 俺の言葉に星乃はがばっと上体を起こすと、慌てて両手でスカートの後部を抑える。

「う、うそ!」

「嘘じゃない」

「しょ、証拠は?」

「……水色」

「ぎゃあ! 破廉恥! 破廉恥風紀委員長! セクハラ野郎!」

 星乃は真っ赤な顔でこちらを睨みつける。ちょっと涙目になっている。

「自分で見せておいて何を言ってるんだ。そっちこそセクハラだろ」

「見せてない見せてない! 見せてたとしてもセクハラどころかボーナスステージじゃないですか! 蓮上先輩のばかーーーー! もう知りません!」