自分は、望まれて生きている。少なくとも、自分を慈しむ他人がこの世界に居るうちは。
シンはずっと一人だったという。それでも、シンが人格破綻者に見えないのはなぜだろう。他者との関係を断絶されたこの空間で、彼がまともに見えるのはなぜだろう。精霊たちがいるからだろうか。
自分のことは結構話したはずだ。生まれ故郷のこと、親のこと、冒険者のこと。十九の自分の持つ人生なんてそんなものだ。精霊たちの話も聞いた。ルーシアに居たときのこと、この島に渡ってきたときのこと、シンと出会ってからのこと、成れの果てになるまでのこと、なってからのことも。
彼らの一生は長いがその代わりに穏やかで波がない。日々同じことを繰り返すことが彼らにとってあるべき姿だという。天気が変わるように、呼吸をするように、さざ波が立つように、木々が芽吹くように、そうした穏やかさを愛し、そういったものに同化していく。
じゃあシンは?
罪の子の今日までを、まだなにも聞いていない。聞かされていない。シンが自分から、過去について語ることがないからだ。
「もういいだろう、そろそろお前の話をしよう」
「嫌いになるかも、だからあんまり」
「ならない」
「わかんないよ、だって人間って俺らとは違う生き物で」
「ならない」
「なんで断言できるんだよ」
「友達だからだ。そりゃあまあ、理解できないことも引くこともあるかもしれないが、それはそれだ。お前が本当に罪人だと言うのなら、それをまだ償っていないなら、そうしろと背中を押してケツ叩くのが友達ってものだ。違うのか」
彼の罪がなんなのか、本当にそれは罪と呼ぶのか。元々ここに来た理由は別段シン本人のことではなかったにせよ、今聞きたいのはこの場所のことよりもシン本人のことだ。
それによって、彼を救える可能性があるのなら。
話したくない理由、話さない理由のすべてにきっと過去の痛みが居座っている。自分の知らない、ここよりも、もっと冷え切った世界のせいで。
「俺は」
「ああ」
「俺は、生まれてきちゃいけなかったんだ」