「ちょっと休憩しようぜー? 俺らはいいけどジオルグっ、またケガしてんじゃねえかよっ」

「わ、わたしが治してあげるねええ、だめだよおお人間は寿命も短いしいちょおっとのケガでも死んじゃうことがあるんだからねええ」

「すまんすまん、つい熱が入ってしまった」

 シンが指一本、ちょっと振ってみただけで火を灯したのと同じように、シンに言わせると純粋な精霊である三人のが上手い強い早い魔法が使えるそうだがジオルグから見て大した差はない。

 イーズが傷口に向かって人差し指で空中をくるくる混ぜるとたちまちかすり傷は最初からなかったように消えてしまう。この手の魔法は魔法が使えない人類種以外には基本レベルで、当時の魔法使いたちであれば十五くらいになれば誰でも使えたそうである。精霊たちの基準は知らないがアムに言わせれば「生まれたときから呼吸ができているのと同じ」ことだそうだ。

 ここに来てわかったことが三つある。

 一つは、毎日吹雪ではないということ。晴れ間がのぞくことはほとんどないが全くないわけではないらしく、六十日のうちの五日か六日くらいは太陽を見ている。

 二つ目は「出来事」によって雪が生物になること。生き物が成長しないこの土地でどうやってたんぱく源である肉や魚を調達しているのかと問えば、出されていた肉は元々雪であるというのだから驚きだ。精霊が影響してしまう、というのはなにも殺すに限った話ではないらしい。

 そして三つ目は山頂にはなにかやばいものがあること。

 厳密なところは不明だし、シンも千年近くここにいるのに山頂には近づいたことがないという。ジオルグもそうだが、死ぬとかなんとかそんな次元ではなくて近づくとまずい、というのを本能的に感じるのだ。東の国・シャハンに行った時、現地の人間は鳥居というものを粗相を禁止するところに用いていたがああいうのに近い。

だからあくまでも屋敷があるのは山頂付近であって、山頂はもっともっと上にある。精霊たちは首をかしげていたから精霊種たちには脅威ではない何かなのかもしれない。

 それがなんなのかはわからないが、外に出る手掛かりになるのならと思う反面、今の自分が近づいたら正体を確かめる前に死んでしまうかもしれないというのがわかる。さすがにそこまで愚かではない。話を聞く時間も、勉強する時間も、鍛錬する時間も人間である自分には、ここにいるうちは無限にある。だったら、と協力を頼めば精霊たちは二つ返事で了承してくれた。

 シン相手ではどんなに手を抜いてもらっても命が一つでは足りないと思う、とイーズが言うのでシンは見ているだけだ。一人だけ混ぜてもらえないことがひどく不服そうではあるがこっちだって命が惜しい。