気が付けば二ヶ月が過ぎていた。

 ここに来てからジオルグは日記を付けだしたがまだ二ヶ月なのかとも思うし、いままで縁のなかった穏やかな生活だったためにもう二ヶ月かと感慨深いものもある。

 外はずっと雪で、邸の外……正確には洞穴の外だが、には出ていない。もっともおめおめ死にたくないので自発的に出ないようにしているといったほうが正しくはあるが意外と苦にならないのは剣の鍛錬に付き合ってくれている精霊三人が思いのほか強かったからだ。

 ジオルグは冒険者、しかもまだ十九なのにギルドのランクは上から二番目のダイヤクラス。通常、ブロンズから始まる冒険者がダイヤになる一つの基準として、一対百で対人戦に勝てるかどうかというものがある。この百というのは中級の魔物がそれくらいに相当するからということで、一人でさばききれるかどうか、その技量や力ずくでねじ伏せることができるのかどうかというのがボーダーラインになっている。

 それくらい出来なくてはあまり調査隊にも合流させたくないのがギルドの本音、ということらしい。弱い人間がいたのでは足手まといだということで専門の現場に入る場合は最低でもダイヤの一つ下、プラチナクラスである必要があった。

 端的に言えばジオルグは強いほうなのだ。

 だが精霊(の成れの果て)の三人はそれよりもっともっと強かった。

「せい、やっ!」

「ぐうっ!?」

「わーい! やったやったー! これでアムの六連勝だべー!」

 六連勝。今日の鍛錬では六連勝。この二ヶ月の通算をするとそろそろ百の大台に乗りそうである。それはイーズもアールも同じことで、実体のない彼らは精霊と比べていくらか弱くなっているはずなのだがまるっきり歯が立たなかった。魔法は一切使っていない、純粋な体術と剣技だけで。もっとも剣はジオルグが教えたものだったがとっくに三人に抜かされてしまった。

 争いという概念がないため精霊が戦うことはなかっただろうし、あったとしても彼らは魔法を使ってその戦闘を回避する方向に舵をとっていたことだろう。

 だから鍛錬といっても三人は首をかしげていたが、練習だとか運動だとかいえばピンときたようだったのでこんな感じでと手合わせの内容を説明したら庭で体を動かして遊ぶもの、くらいの解釈をしたらしかった。

 勝ち負け、という概念は人間と変わらないので勝てば嬉しいし負ければ悔しいのだそうだ。