カーミラとリッツには悪いことをした。あの二人には、帰りを待っている家族がいたのに。まだ死んだということがぴんと来ない。あんな猛吹雪の、火も消えた洞穴に置いてきたのはほかでもない自分自身なのに。

「この世界には、知らないことばかりだな」

「俺だってそうだよ、俺はこの千年の外のこと知らないからね」

「アムたちも成れの果てになってから外出てないしな、ジオルグのが知ってるべ」

「そんなものか。俺でも先生役になれそうだな」

「先生! ジオルグに先生になってもらおおうっとお。わたしたちもジオルグの先生になるねええ」

「ああ、頼りにしている」

 時間が流れないとは言っていたが、ここにいたら、もしかしたら、そういう感覚も少しずつマヒしていくんじゃないかという気がしてくる。冒険者だったのは生きていくためでもあるし、知りたいことが多い自分の欲求を満たすのにちょうどよかったからだ。

 金がなかったので専門的に学ぶ機会がなかったジオルグは研究特化型の冒険者にはなれなかったが分からないなりに新しい世界をその目に焼き付けて嘆息したのは一度や二度ではなかった。知らなくても、知らないからこそ美しいものを幾度となく見てきたのだ。

 同じだけ残酷な世界も知っている。焼け付いた土地も、格差という言葉では生ぬるい世界で日々を繋ぐ人たちも、およそ人とは思えない死に方も。十九という年の割に、彼は外を良く歩き、良く見ていたほうだった。だからなおのことシンが特別であるとは思えなかった。

 生い立ちが不幸であっても、この世界にいるすべての人間が自分とは違い、自分の常識に当てはまらず、けれどそのすべてが個々の時を生きている。

 特殊な土地に住む美しい青年。それはジオルグにとっては異形でもなんでもなく、ただ変わった場所に住んでいる、会ったことがないタイプの、友人になれる一人でしかなかったのだ。