「うまっ、なにこれここ最近で一番美味いね」

「わああい! あのねえ、オランジェのマーマレードに漬けてえ、それからあ……」

 昼食に出された食事は自分が見慣れたものと同じだった。パンやスープ、肉に野菜。彩豊かだし、味もかなり美味い。ゲテモノで首の皮一枚繋いで命からがら帰ってきた経験もなくはなかったが、それは限定的な食事だから耐えられたのであって毎日それでは心が削れていくだろう。食べなれたもの、というののありがたさを噛み締めた。

「ジオルグの食ってたもんと比べてどう? 見た目がキモかったりしねえ?」

「いや、街でもこういう食事をとっていた。味はアールたちの腕のほうが上みたいだ」

「まじかよ! やったぜ、アム、イーズ!」

「やったべー!」

「ほめられたあぁ!」

 彼らの目の前にあるのは夜空のような、きらきらした色のスープだけ。食べないのかと聞いたらそのスープが彼らの食事で、それしか必要としないのだそうだ。

「これはねええ、精霊の粉が入ってるものでえ、うーんとお、人間でいうお粥う? みたいな感じかなああ」

「精霊の粉ってなんだ?」

「アムたち精霊は、同種の死骸を食べるんだべな。その死骸が粉。この山だと、吹雪と空気そのものが精霊の成れの果てのあとの姿でその出来事を食べて体を土に還すんだべ」

 出来事を食べる、というのがいまいちわからないが、そうして同種の死骸を食べて体をその環境になじませると尽き果てたときにその食べていたものと同じ「出来事」に同化できるのだという。

 ここは雪山だが、水辺であればせせらぎや波になるし、森であればフィトンチッドや木漏れ日になったりする……らしいがらしいというだけで理解は及ばなかった。自然に還る精霊にとって必要な行為なのだろう。

「必要ないだけで彼らはお菓子が好きだけどね」

「お菓子おいしいよな! 俺、マフィンが好きだ!」

「アムはチョコレートが好きだべ」

「んん~とねええ、プレッツェルが好きかなああ」

 聞いているだけなら街の子供たちと同じだ。自分がここを出入りできるようになったら彼らに大陸のお菓子をたくさん持ってこようと決めた。それまで彼らが成れの果てのまま居られるかはわからないが、生きていても、成れの果てになっても自分よりは寿命が長いそうだからきっとまだ先の話だろう。

 シンいわく、イーズが一番若いらしく、それでもまだ成れの果てになってからは三十年くらい。一番古株のアムも四十くらいであるという。成れの果てとしての寿命は大体三百年くらいだそうなのでまだまだ付き合いは長いだろうと言っていた。

 ちなみに一緒に過ごす精霊はイーズで四人目だそうだ。最初の一人は、もうずいぶん前に出来事になってしまったらしい。

「俺の話も大事かもしれないけど、ジオルグってば俺らにとっての常識をなんにも知らないんだろ? 精霊の話も聞いとけば?」

「それもそうだな。精霊種はおとぎ話だと思っていたんだ。よければお前たちの話が聞きたい」

「アムたちの話? どこから?」

「種族の成り立ちからでいいんじゃね?」

「精霊はねええ、白翼種の始祖に作られたんだよおお」