明けて、翌日。
 一連の出来事で重くなった頭と体に鞭を打ち、何とか会社まで辿り着くことが出来た。昨日の今日でどの面下げてという感じだが、残念ながらそれが社会人としての宿命なのだろう。
 オフィスに入ると、騒ついた雰囲気が俺を迎え入れた。まだ就業時間前だというのに、何故か皆落ち着きがない。普段であれば、コーヒーを片手に最近買ったバッグの自慢だの、昨日の合コンの愚痴だのを呑気に話している事務の女の子も、今日ばかりは神妙な顔つきでデスクに座っている。
 いや、まさかな。いくら何でも早すぎるだろ。
 俺の出社に気づいた飛鳥は、血相を変えこちらに近づいてきた。

「近江さん」
「お、おう。おはよう」
「経理部長が、亡くなったそうです……」

 俺の予感は思わぬカタチで裏切られた。
 自室で首を吊っているところを今朝家族に発見されたらしい。


『きっと後悔するぞ』


 ……自業自得だ。
 仮に俺が告発しなくても、捜査が入った可能性は十分あるだろう。
 そうなったら、アンタはどうしていたんだ?
 気付けば、俺はまた自分自身に言い聞かせていた。

「経理部長、何があったんですかね……」
「……さぁな。分からん」

 お前は知らなくていい。
 お前はこんな会社に足を引っ張られる必要はない。

「……そうですか。ですよね、すみません」

 それだけ言うと、彼女は自分のデスクへ戻っていった。
 朝から嫌な気分だ。
 経理部長の死を嘆く数人の社員の嗚咽が、『お前のせいだ』と言わんばかりに俺の心を掻き乱してくる。
 俺は逃げるようにオフィスから離れ、投資先とのアポイントへ急いだ。