「お兄さん。この辺に生えているのは、殆ど薬草だよー」
「分かった。程度に摘むよ」

 セシルに教えて貰いながら薬草を摘み、何気なく村を眺めてみた。

「家の屋根が赤色で統一されているんだね」

 眼下に並ぶ家は整列している訳ではないし、大きさや形だってバラバラだけど、屋根の色だけは赤色で統一されている。
 単に屋根に使われる材料が同じだけなのかもしれないけど、日本では見られない風景だ。

「お兄さんは、こういうのが好きなの?」
「俺の生まれ故郷では家の大きさも、形も色も、バラバラだったからね。こういう風景を見ているのは面白いよ」
「なら、ボクのお気に入りの場所へ連れて行ってあげる。お兄さんは、きっと好きになるよー」

 暫くモラト村の風景を楽しんだ後、村で昼食を済ませ、ついでに食材も買う。
 実家を呼び出すと、買った食材を冷蔵庫にしまい、続いて薬草を調剤室へ。
 様々な種類の薬草を摘んだので、仕分けまでやるべきなんだけど、今は調剤室の隅へ積み上げておいた。
 城魔法を使えば手ぶらで旅が出来るし、宿も不要だし、どこかへ移動している途中でも野宿をしなくても良い。
 はっきり言って凄く役立つスキルなんだけど、荷物の仕分けや整理は面倒かな。
 何か改善策を考えなければと思いつつ、一階へ戻ると、

「お待たせ……って、寝てるっ!?」

 ベッドでセシルが小さな寝息を立てて眠っていた。
 すぐに起こすのも可哀そうなので、先に夕食の仕込みだけ済ませる事に。

「コンロは魔力の流し方が分からないからセシルに頼むとして、炊飯器はそのまま使えそうだから、米を炊いておこう」

 モラト村が田舎だからか、米みたいな物が買えてしまった。
 野菜と肉も切って、後は焼くだけの状態にして、冷蔵庫へ仕舞い、夕食の準備が終わる。

「セシル。そろそろ起きてー」
「んー……お兄さん。準備は終わったのー?」

 寝起きのセシルを改めて見てみると、やっぱり細い。
 よし、後で肉を足しておこう。

「俺は終わったから、セシルのお気に入りの場所へ連れて行ってよ」
「うん。ついて来てー」

 実家から出ると、村へ入らず林の中へ。
 時々薬草を摘みながら獣道を歩いて行くと、

「着いたよー。どうかなー?」
「凄い! 幻想の世界へ来たみたいだ!」

 木々に囲まれた綺麗な湖が現れた。
 人工物が一切無く、湖の周りには花が咲き乱れ、蝶々が舞っている。

「こんなに綺麗な湖は初めて見たよ」
「ふふっ。お兄さんが気に入ってくれて、良かったよ」

 暫く湖の周りを散策し、幻想的な風景を楽しんだ後、今日は湖の近くで寝ようという話になった。
 とはいえ、実家を出して雰囲気を壊すのは嫌なので、少し林の中へ入っているけど、三階の俺の部屋から湖は十分見える。
 実家の窓から綺麗な湖が見えるなんて、物凄く贅沢だ。

「お兄さん! これは何!?」

 窓の外を眺めていると、セシルが俺の部屋にあった大量のラノベや漫画を見つけて驚いている。
 しまった。この世界では本が珍しいのかも。

「俺の国の本なんだけど……」
「本は分かるんだけど、古典から最近の物まで殆ど読んだはずなのに、ここにある本は見た事が無いよっ!」

 だろうな。ラノベはまだしも、漫画なんて無いだろうし。
 しかし、セシルが本を殆ど読んでいるって事は、そもそも本が少ないって事なんだな。
 日本では本を全て読むなんて、一生掛かっても無理だろうし。

「お兄さん。どれか読んでも良い?」
「構わないよ。どんなのが好みなんだ? 冒険ものとか、ラブコメとか」
「ラブコメ? ボクは恋愛話が好きかな」
「分かった。ただ俺は純文学みたいなのは持ってないからな?」

 セシルは全くピンと来ないみたいなので、一先ず王道の学園ラブコメを渡しておいた。

「お兄さん! 本に女の子の絵が描いてある! めちゃくちゃ上手だし、紙の質も凄い!」

 あー、ラノベだからね。
 漫画は文化が違い過ぎるから、ラノベの方が良いと思ったけど、正解だったな。
 表紙でこれなのだから、漫画だとどうなっていたか。
 セシルが黙々とラノベの世界へ入り込んだので、俺も再び異世界の景色を楽しむ事にした。