「貴方は?」
「失礼いたしました。私は当ギルドの責任者、トーマスと申します。ルロワ様とお連れ様に何か失礼がありましたでしょうか」
責任者……所謂ギルドマスターと呼ばれる一番偉い人が出てきた。
俺は適性価格で買い取って欲しかっただけなのに……と思っている内に、セシルが口を開く。
「こちらの女性がね、ボクの友人が持ち込んだAランクのポーションをBランクだと言って、値切ろうとしているんだよ」
「値切るだなんて……私は適切な対価をお支払いするつもりで……」
「待ちたまえ。私が見よう……ステータス」
事情を察したトーマスさんが、すぐさま魔法を使用する。
おそらく鑑定と同じか、より優れた効果なのだろう。
トーマスさんの手元に銀色の枠が現れ、
『マジック・ポーション
Aランク
状態:安定
魔法力を回復する薬』
俺が言った通り、Aランクと表示されていた。
同様に全てのマジック・ポーションを確認すると、俺が言った通りの結果となった。
女性は何か言いたそうだったが、トーマスさんに指示され奥の部屋へ姿を消す。
「当ギルドの職員が失礼いたしました。申し訳ありません」
「いえ。誤解が解けたのなら、俺はそれで……」
「お気遣いありがとうございます。では早速買い取りですが、マジック・ポーションのAランクは金貨三枚、Bランクは金貨二枚となりますので、こちらをお納めください」
「ありがとうございます……って、あれ? 少し多いですよ?」
Aランクが六本、Bランクが四本なので、合計金貨二十六枚のはずが、三十枚となっている。
「ご迷惑をお掛けしたので、お詫びです。この度は、誠に申し訳ありませんでした」
「いえ。こちらこそ、あの、ありがとうございます」
おそらく口止め料なのだろうと思っていると、空気を変えたかったのか、トーマスさんが話題を変えて来た。
「ところで、お二人は暫くこの村へ滞在されるのでしょうか?」
「えぇ。暫くは観光しながらゆっくり過ごそうかと思っています。とはいえ、俺は世界を旅しているので、ある程度見たら、どこかへ移動しますが」
「観光ですか。残念ながら、この村には観光と言える程のものは無いですね。観光をご希望でしたら、乗合馬車で王都ベルナまで行った方がよろしいかと。半日程で着きますし、王城だってありますよ」
それって俺が最初に召喚された街っぽいな。
王都――日本で言う首都だったのか。確かに城もあったし、街も人が多くて賑やかだったし。
トーマスさんにお礼を言い、一先ず商人ギルドを後に。
「セシル、さっきはありがとうな」
「お兄さん、何の事?」
「俺を保証するって言ってくれた事だよ。セシルが居なければ、せっかく作ったポーションも買い取ってもらえなかったんだろ?」
「そうなのかもしれないけど、ボクはお兄さんが作ったポーションでお金を稼いで貰わないと困るからねー。これから暫くお世話になる訳だし、食事には有り付きたいよね」
おぉっと、そういう理由か。
まぁ分かり易くて良いけどさ。
「でも、ボクも食費くらいはちゃんと稼ぐからさ」
「何か商売でもするの……というか、元々商人なのか?」
「ボク? ううん、ボクは商人ではないけど、その代わり……これだよ」
村の中を歩いていると、舗装されていないむき出しの地面から、黄色い花を摘む。
「これはアルニカルっていう花なんだけど、鎮痛効果のある薬草なんだー」
「そうなんだ」
「うん。この辺りに住む人は知らないみたいだけど、お兄さんも知らなかったんだね。ボクは植物の知識があるから、ポーションの材料になる薬草を見つけたら教えてあげるよ」
「なるほど。そうすれば、またポーションにして、売る事が出来るな」
「そうそう。薬草をそのまま売るよりも、ポーションにしてから売った方が、高く売れるしね」
確かにセシルの言う通りかもな。
スキルで調合出来ているだけで、俺自身は薬草や薬の知識なんて無いからね。
セシルが薬草について教えてくれるのは非常に助かる。
ただ、まだ中学生くらいだというのに商人ギルドへ顔が効いたり、植物に詳しかったりと、セシルは何者だろうかとも思うけど、詮索されたくないのは俺も同じだ。
異世界から来たって言っても、信じてもらえないだろうし。
時々道端に生えている薬草を摘みながら、特にアテも無く歩いていると、丘の上に到着した。