魔法で伝達されたミアさんの指示で、魔力を練っていた八千人を越える魔術師たちが一斉に魔法攻撃を放つ。
巨大な炎と風の魔法が混ざり、炎の嵐が魔王を包み込む中に、巨大な雷が落ちる。
少しして嵐が収まると、
「弓兵、一斉射撃っ!」
千本近い矢が一斉に放たれた。
突然召喚され、いきなり強力な魔法攻撃を受けた所へ多数の矢が放たれ、魔王の身体に突きささる。
「前衛! 第一部隊、突撃っ!」
最前列の騎士たちが槍を構えて突撃した所で、ようやく魔王が動き出す。
というか、これ程の攻撃を受けて生きているのが不思議なんだけど、今度は魔術師たちの半数が防御魔法を使って皆を護り、突撃した騎士たちが一旦下がった所で残りの半分の魔術師たちが再び攻撃魔法を放つ。
流石にこれだけの攻撃は堪えたのか、魔王が逃げるようにして宙に浮いた所で、
「グラビティ・プレス」
伝説級の黒魔道士ダニエルさんの声が響き渡り、魔王の身体が地面に叩き付けられ、
「アース・スパイク」
セシルの魔法で地面から尖った岩が突き出て来た。
マジックポーションを飲んで居るからか、昨日見た物よりも、より鋭利に、より大きな岩となっているのだが、魔王の身体が硬いのか、尖った岩で突かれるだけで致命傷には至っていない。
だが、
「グラビティ・プレス」
俺が二次魔法でダニエルの地面に落とす魔法を使うと、尖った岩が魔王の身体を突き破り……動かなくなった。
「倒し……たのか!?」
「倒したんだよなっ!」
「魔王を倒したぞっ!」
一万人の人々が歓喜の声を上げる中、ダニエルが近づいてくる。
「見た魔法を使えると言葉では聞いていたが、まさかワシのとっておきまで使えるとはのぉ」
「あ、勝手にすみません。使わせてもらいました」
「いや、良いのじゃ。しかし、お主は平気なのかの? あの魔法は、重力を操作する魔法。対象に掛かる重力を十倍にするが、大量の魔力を要するのじゃが」
「この二次魔法は魔力を消費しないみたいで、連続で何度でも使えるんですよ」
「なんと。ワシでも魔力を練りに練らなければ使えぬ魔法だというのに、凄いのぉ」
ダニエルに感心されていると、アーニャが近づいてきて、くいくいと俺の服を引っ張る。
「どうしたんだ?」
「リュージさん。あの魔王……本当に死んでますよね?」
「そうだと思うけど? どうかした?」
「いえ、少し動いたような気がして」
アーニャは相変わらず怖がりだなと思いつつ、念のため亡骸を観察し……動いた!?
「皆、離れてっ! 魔王はまだ死んでないっ!」
だが俺の叫び声が、騒いでいる一万人の軍勢に届くハズがなく、
――ゴゥンッ
魔王の周辺に黒い炎が巻き起こり、近くに居た騎士たちが巻き込まれる。
「ふはは……人間どもよ。まさか召喚魔法で呼び出すとは思っていなかったぞ。だが、甘いな。我は不死の身体。この程度の攻撃であれば……」
「グラビティ・プレス!」
「ぐっ……」
ダニエルさん曰く、重力を十倍にする魔法で再び魔王を黙らせたが、まだ余裕があるらしく、不敵な笑みを浮かべている。
「人間にしては、なかなかの使い手だが、人間の魔力は乏しい。この魔法は一回使うのがやっと……」
「グラビティ・プレス!」
「――ッ」
四回目となる重力を十倍にする魔法を使い、魔王に掛かる重力は合計一万倍となった。
「グラビティ・プレス!」
「グラビティ・プレス!」
「グラビティ・プレス!」
魔王が何か言いかけていたけれど、生憎俺はこの魔法を何度でも使用出来るから、
「グラビティ・プレス!」
「グラビティ・プレス!」
……
「グラビティ・プレス!」
十の何乗になったか分からないくらいの重力を掛けられ、魔王の身体が大地にめり込み、凄い勢いで地中深くへと埋まっていく。
「セシル! 何か土系の魔法で魔王を埋めて!」
「了解っ! ストーン・シャワー!」
かなり地中深くへ埋もれた魔王に繋がる穴に、セシルが大量の岩を落として行く。
「アーニャ! 騎士たちにポーションを!」
「はいっ!」
「頼むよ……ストーン・シャワー!」
アーニャに騎士たちの治療を任せ、俺も二次魔法で埋める作業に加勢し、
――魔王を倒した事により、貢献ポイントが付与されました――
いつもの声が頭に響いた。