「その聖者さんは疫病に冒された街を丸ごと救ったのよね?」
「どうして、そんな事を知って居るんですか?」
「私の国の事だもの。当然知っているわよ」

 どういう情報網があるのかは知らないが、ミアさんに俺の事が知られていた。
 本当にどうなっているのだろうか。

「そういえば、どうしてミアの所にはヒーラーが居ないの? 魔王討伐なんて、ヒーラーは必須じゃないの?」
「それがねー。教会が異世界から最高のクレリックを召喚するって言って居たのに、失敗したらしくてねー」

 えーっと、その誤って召喚されたのが俺です……言えないけど。
 そんな事を思いながら、適当に暫く話を聞いて居ると、

「ところで、さっきの話だけど、どうして聖者さんがうちの国の機密事項――私が魔王退治の旅に出た事を知っているの?」

 ミアさんが曖昧に終わった話題を掘り返す。
 どうしよう。異世界召喚されたと正直に言うべきか。
 ミアさんたち一行には俺が異世界から来た事が知られても構わないが、セシルとアーニャが知った時、どう思うだろうか。
 何と答えるべきか迷っていると、

「ミア。機密事項って言うけど、その話はボクも知ってたよ? ミアが魔王退治の旅に出たって聞いて、面白そうだと思ったから、ボクも真似して王国を飛び出して……お兄さんと出会ったんだ」
「なるほど。セシルからかー。流石にエルフの国には筒抜けだよねー」

 セシルがフォローしてくれたおかげで、異世界召喚の話はしなくて良さそうだ。
 それから、アーニャと行動を共にしている理由に話がおよび、不思議な力によって飛ばされて来た事や、家族を探す為に商人ギルドの本部まで来たけど、情報が得られなかった……という事を話すと、

「じゃあ、私から城に問い合わせの手紙を出しておくわ。商人ギルドよりも、詳しく情報を得られるでしょう」
「ありがとうございます!」

 ミアさんが王女の力を使って調べてくれるらしい。

「ちなみに、貴方が飛ばされた不思議な力に心当たりは?」
「私自身には全く無いですが、父が魔王討伐の最前線に居るからかも……」

 ミアさんの問いにアーニャが答えると、イケメン剣士レオンが何かに気付いたらしく、口を開く。

「魔王討伐の最前線の猫耳族か。もしや貴方の父上は、ミハイル=スヴォロフという名前では?」
「はい、そうです! 父を御存知なんですか!?」
「えぇ。僕が魔王城の前線に居た時、少し話した事もあるので。顔見知りなので、もしもミハイルに会ったら、娘さんが探していたと伝えておきましょう」
「よろしくお願いしますっ!」

 商人ギルドはハズレだったけど、アーニャのお父さんの話が出てきた。
 やはり大きな都市へ行って、大勢の人から情報収集すべきだろうか。

「そうだ! これをあげる」

 ミアさんがおもむろに腰のポシェットを漁り、セシルに小さな何かを渡した。

「これは?」
「魔法の手紙っていうマジックアイテムよ。この封筒に手紙を入れて魔力を込めると、一瞬で私の所へ届くの。何か困った事があったら力になるから知らせて」
「わかった! ありがとっ!」

 封筒は全部で三つ。
 三回くらい助けを求められそうだ。

「では、お礼っていうには早いですが、これをどうぞ」
「えっ!? ちょっと待って。この純度は、まさかAランクポーション!?」
「はい。俺の力ではAかBランクしか作れないので、Sランクとかは持ってないんですけど」
「いえAどころかB、いえCランクを作れるだけでも一流の薬師なのに、Aランクが何本も……って、ちょっと待って。このポーションってどこから出したの?」
「倉魔法というか、空間収納ですけど?」
「えぇぇぇっ!? 何その魔法!? ダニエル知ってる!?」

 Aランクのバイタル・ポーションを六本出したら、ミアさんのテンションが再び上がり、凄い魔道士が空間収納は知らないと首を振る。
 あ、これ、やっちゃった!?

「リュージさん。改めて、私たちと一緒に……」
「ダメっ! お兄さんは絶対にボクと一緒なんだからっ!」

 収まりかけていたスカウトが、再び再開されてしまい、それを阻止しようとするセシルに抱きつかれてしまった。