「セシルに診察は要らないと思うよ?」
「いいのー! ボクも診察してもらうのー!」
セシルが頬を膨らませながら、診察スキルをねだってくる。
なるほど。口では平気だと言っていたけど、内心は不安だったんだな。
セシルがいつの間にか服を脱いでいたので、早速診察スキルを使用する。
『診察Lv2
状態:健康』
「セシルも健康だぞ。良かったな」
「どうして? どうして猫のお姉さんには恥ずかしそうだったのに、ボクの時は普通なの? 一切躊躇ってないよね!?」
「いや、アーニャの時と一緒だって。それより、早く寝ようよ」
セシルの要望通り診察スキルを使用したのに、何故かセシルが不機嫌だ。
一体何が悪かったのだろうと考えていると、セシルがアーニャに耳打ちされ、
「そういう事なんだ。お兄さん、さぁ早く寝よー!」
いつもの笑顔に戻る。
いや、むしろ普段よりも上機嫌な気がする。
セシルが俺の腕を引っ張って上の階へ行こうとする中で、ふとアーニャに目をやると、満面の笑みで親指を立てられた。
どういう意味なんだと思いつつも、心底疲れ切っていたのでセシルと共にベッドへ。
ようやく就寝だけど、普段より少しセシルとの距離が近い様な……と思っているうちに、夢の世界へ。
翌朝になると、
「お兄さん、おはよっ!」
「セシルが俺より先に起きるなんて珍しいな」
「そ、そうかな? それより早くご飯に行こうよー!」
「アーニャが準備してくれているなら、先に行って良いよ?」
「やだー。お兄さんと一緒に行くのー!」
何故かセシルが甘えてくる。
そんなセシルと共に朝食を済ませた所で、コトンと金属の腕輪が落ちた。
「そうだ。屋根裏部屋に置いておくんだっけ」
アーニャがロザリーさんの形見の腕輪を怖がるので、未だ見ぬ屋根裏部屋へ仕舞う事になったのを思い出し、三階の廊下に現れていた梯子を登ってみる。
六畳程の狭い場所だけど、屋根が大きな天窓となっていて、サンサンと朝日が差し込んでいる。
もちろん元の実家に屋根裏部屋も無ければ天窓も無いのだが……深く考えるのはやめておこう。
一先ず、その辺にあった木箱に腕輪を入れ、置いておく事にした。
「お兄さん。それ、ロザリーさんの形見?」
「あぁ。とりあえず、陽の当たらない隅の方へ置いておくよ」
気付けば、いつの間にか背後にセシルが居て、しゃがみ込んだ俺の背中におぶさるようにして箱の中を覗いていた。
「ところで、ここが新しく出来た屋根裏部屋だよね。倉庫として使うの?」
「今の所はそうかな。何か他に案が浮かんだら、活用したいけど」
「ん-、太陽の光が沢山差し込んでいるから、薬草を育てられないかな? 鉢植えみたいな感じで。ボクが魔法で水を出せば、下から運ばなくても良いし」
いつも自然に生えている物を採取しているけど、必要な薬草が安定して得られるのは良いな。
「いいね。そうと決まれば、必要な物を買いそろえよう」
「うんっ! じゃあ、お買い物だね!」
セシルと意気投合し、アーニャを誘って街へ。
露店を回って、薬草の栽培に使えそうな物を物色していると、
「もしかして、貴方が聖者様かい!?」
「え? 違います」
「そうかい。ごめんよ。夢で見た姿にそっくりだったから」
店のオバちゃんが意味不明な事を言ってきた。
見ず知らずの人を聖者と呼び、しかも夢で見た姿って何なんだ?
ちょっと変な人かと思って、別の露店へ移動すると、
「あの……貴方が聖者リュージ様でしょうか?」
ここでも店員さんが……って、今度は名前まで知っているの!?
「あの、聖者ではありませんが、リュージという名前ですが……」
「やはり貴方が聖者リュージ様だったのですね! ありがとうございます!」
「何の話ですか?」
「この街に住む者は、昔から数日置きに『助けてくれ……』と夢の中で中年幽霊に繰り返し呟かれるという、悪夢に困っていたんです」
「……はい?」
「ですが二日前の事です。『今まですまなかった。聖者リュージ殿により成仏出来そうだ』という夢を、街中の人が見たんです。そして私の知る限り、昨日悪夢を見た人は居ないので、本当だ……という話になっていまして」
中年幽霊っていうのはヴィックの事だろうけど、どうして俺の名前を街中に言って回ったのだろう。
「あーっ! あの言葉の意味って、これの事かぁぁぁっ!」
昨日ヴィックが言った、『ロザリーの形見を見つけてくだされば、リュージ殿は一躍ヒーロー』という言葉は、俺が街の人を悪夢から救った事にするって意味か!
いや、いらないからっ!
お姉さんとの会話が周囲の露店にも伝わり、聖者コールが起こってしまったので、急いで街を発つ事にした。