ヴィックが家を出てから、ひたすらクリア・ポーションを作り続けていると、セシルが戻って来る前に材料が無くなってしまった。
 今回はセシルの魔法が効かない相手で、全ては俺の準備次第となる。
 なので、クリア・ポーション以外に有効そうな物が無いか薬草を片っ端から鑑定していくと、白秋桐という葉っぱが浄化作用を持つと分かった。
 その白秋桐を調合すると、ホーリー・インセンスというアイテムが出来たのだが……見た目がビー玉みたいなコレは、どうやって使うのだろう。
 とりあえず鑑定してみると、

『鑑定Lv2
 ホーリー・インセンス
 Bランク
 悪を祓う練香』

 この丸い玉はお香なのか。
 という事は、火を点けて煙を出す必要があるんだよね?
 後で、皆に火を点ける手段を聞いてみよう。
 この世界にもライターみたいなのが有れば良いんだけどね。

「ただいまー。お兄さん、いっぱい採って来たよー」

 ホーリー・インセンスの使い方を考えているうちにセシルが大量の薬草を持って帰って来たので、夕食が出来るまで、クリア・ポーションを作り続ける。
 その結果、三桁近い数のクリア・ポーションと、十数個のホーリー・インセンスが出来た。

「このホーリー・インセンスって、火を点けて使うお香なんだけど、火を点ける手段って何があるかな?」
「ボクは火を使わないから何とも言えないかなー」
「んー、松明とかでしょうか」

 セシルとアーニャに聞いてみたけど、ライターみたいに手軽で、安全に着火出来るアイテムは無いのか。
 松明を持って行くのは良いんだけど、危ないんだよね。
 暗視目薬があるから、必須でもないし。

「リュージさん。そのホーリー・インセンスって練香に見えるんですが、もしそうなら火が無くても大丈夫ですよ」
「そうなの?」
「えぇ。一つ貸してください」

 アーニャにホーリー・インセンスを渡すと、スッと手を動かしただけで、白い煙が立ち昇って来た。
 ただ、早過ぎて何をしたのか見えなかったけど。

「摩擦熱ですよ。ホーリー・インセンスを素早く壁に擦り付けただけです」
「素早く壁に擦り付けただけ……って、こんなの小さいのに?」

 アーニャの説明通りにやってみたけれど、ビー玉サイズのこれを、摩擦熱で煙が出る程早く壁に擦り付けるなんて俺には無理だ。
 という訳で、ホーリー・インセンスは全てアーニャに渡して、俺はクリア・ポーションに専念する事にした。
 クリア・ポーションは小瓶に入れているからかさばるし、倉魔法が使える俺が持つのが一番良さそうだしね。
 明日は朝から遺跡の地下へ再挑戦するけど、スケルトンが単体で現れたら、俺がクリア・ポーションを投げつける。
 複数出て来たらアーニャもホーリー・インセンスを投げ、万が一近寄られてしまったらセシルが風の魔法で吹き飛ばして、時間稼ぎをするという事になった。
 異世界へ来て初めて俺が主戦力となる事にドキドキしながらも、先ずはしっかりと睡眠を取り、朝を迎える。

「おはよう! リュージ殿、朝ですぞ!」
「うわぁっ! ……ヴィックか。驚かさないでよ」
「そんな事より、やりましたぞ! 今日、無事にロザリーの形見を見つけてくだされば、リュージ殿は一躍ヒーローですぞ!」

 何の話だっけ?
 昨日、ヴィックが自分にしか出来ない事をやると言って、どこかへ行って……まぁいいや。
 ヒーローとか言われても何の事か分からないけど、その時になったら、またヴィックが説明してくれるだろう。
 暫くするとセシルやアーニャも起きてきたので、朝食を済ませて暗視目薬を使用すると、

「よし! 今度こそ遺跡を攻略だっ!」
「おー!」
「お、おー」

 元気なセシルと、顔が引きつるアーニャと共に、再び遺跡の地下へ降りた。