マジック・ポーションを十個程作り、自室にあった鞄に入れて、セシルと共にクリニックを出る。

「こういう外観だったんだんだね。珍しい造りだけど……って、消えた?」
「俺が外に出て扉を閉めると消えるんだ。で、広い場所さえあれば、いつでも呼び出せるんだ」
「なるほど、凄いね。これなら宿の心配は要らないね」

 セシルも俺と同じ感想を抱き、一先ず朝食のため街へ向かう。

「そういえば、セシルはどうして林の中で寝ていたんだ?」
「ボクは草木に囲まれているのが好きなんだよ。だけど、お兄さんのベッド……あれは格別だね。あんなフカフカなベッドで寝た事無いよ」

 クリニックのベッドも日本製だし、異世界のベッドに比べれば数段優れているのだろう。
 この世界の標準的なベッドを知らないから、あくまで想像だけど。

「ところで、セシル。知っていたら教えて欲しいんだけど、ポーションを売るとしたら、どこが良いかな?」
「んー、ボクは人間社会に詳しくないけど、作ったポーションを売るなら商人ギルドじゃないかなー?」
「わかった。朝食を済ませたら商人ギルドへ行ってみよう」

 なるほど。ここはギルドがある世界なんだな。
 ただ、セシルは変な事を言わなかったか? 人間社会がどうとかって。

「あのさ。セシル……」
「お兄さん。見てよ。カモミーユの花が咲いているよ」
「カモミーユの花? ……あ、あぁ薬草だね」
「そうそう。バイタル・ポーションの材料だよ。これで、お兄さんがポーションを沢山作れるでしょ。摘んで行こうよ」

 薬草の棚に書いてあった名前を思い出した所で、セシルが街道から逸れ、白い花畑へと入って行く。
 俺にとってはただの白い花だけど、セシル曰くポーションの材料らしい。
 この世界でカモミーユの花が有名なのか、それともセシルが薬草に詳しいのかは分からないけど、俺も一緒に薬草を摘み、二割程摘んだ所でセシルが作業を終える。

「お兄さん。十分摘んだし、そろそろ止めておこうよ」
「俺はまだ疲れてないから、もう少し摘んでおくよ」
「そういう意味じゃないんだよ。あんまり摘み過ぎるとカモミーユが可哀そうだし、来年咲かなくなったら困るしね」
「なるほど。そういう事か」

 何事もやり過ぎはダメだと気付いて街へ向かう事にしたけど、花束を持ったままなのはどうかと思うので、城魔法でクリニックを呼び出し、

「セシル。とりあえず花束を家の中に」

 中に花束を入れ、扉を閉める。
 宿や倉庫代わりになる良いスキルなんだけど、荷物の出し入れだけ簡単に出来ると良いんだけどな。
 そんな事を思いながら街へ入り、適当な露店で朝食を済ませると、道を聞きながら商人ギルドへとやって来た。
 綺麗な女性が要件を聞いて来たので、アイテムの買い取りだと伝えると、俺が読んでいたラノベで定番の言葉が返って来る。

「ギルドカードはお持ちですか? それが無いとお取引は出来ないんです」
「無いので作ってもらいたいんですけど」
「では、どなたかの紹介状はございますか?」

 紹介状? よくある異世界ものだと、この場ですぐギルドカードを発行して、すぐに取引開始じゃないの!?
 せいぜい発行手数料が必要だとか、年会費や税金が要るっていうくらいだと思っていたのに。

「すみません。紹介状は無いです」
「申し訳ないのですが、お客様とはお取引が出来ないんです。どなたか信頼の出来る方――例えばCランク以上の商人からの紹介状があれば、ギルドカードが発行出来るのですが」

 マジかよ。どうして一見さんお断りのハードモードなんだっ!
 異世界へ来たばかりの俺に人脈なんて皆無だよ!?
 ポーションを売りながら異世界観光という計画が、最初の一歩で躓いてしまった思っていたら、後ろに居たセシルが前に出る。

「お姉さん。この人はボクが保証するよ。それなら良いでしょ?」
「え……あっ! セシル=ルロワ様っ! 失礼いたしました。今すぐギルドカードを発行させていただきます」

 セシルが口を開いた途端、女性の態度が一変し、突然個室へと招かれてしまった。
 見た目は普通の少年だけど、セシルは一体何者なのだろうと思っていると、

「ふふっ。ボクはちょっと有名だって言ったでしょ。この辺りの国ではボクの顔が効くから、自由に行動出来ると思うよー」

 俺の思考を読んだかのように、クスクスと笑みを浮かべていた。