白魔法が使えない回復術士は要らないと言われたので、実家を召喚出来る城魔法を使って、異世界スローライフ

 何とかレッドフロッグを倒した後、倉魔法で取り出したバイタル・ポーション(B)を飲み、泣いているセシルを連れて家の中へ。
 アーニャやララさんからも、無茶をし過ぎだと心配され、実家へ来ていた患者さんのように、クリニック側のベッドに寝かされてしまった。
 ポーションで回復したから大丈夫だと言ったのに、セシルが何かあるとダメだから一緒に寝ると狭いベッドに潜り込み……眠かったのか、安心したのか、すぐに寝息を立ててしまう。
 そのせいで、俺も身動きが取れずに寝るしか出来なくなってしまい、初めて生きるか死ぬかという体験をしたにも関わらず、案外早く眠る事が出来た。

 その翌朝。
 アーニャの馬術がいろいろと大変だった事を踏まえ、歩いて街へ戻る事にしたのだが、ララさんはギルドへ戻って今回の代金の清算をする為、先に馬で帰っていった。
 平和な――魔物が出ても、セシルが秒で排除する――草原を歩き、蛙と戦っている時に吸い込まれていったヘビの話になる。

「ヘビは大量の蛙を食べようと川に来たけど、竜巻が発生しているから離れて様子見していたんじゃないかと思う」
「お兄さん。ヘビって、そんなに賢いのかなー?」
「私はリュージさんの意見に賛成です。患者さんの中には麻痺毒の症状の方も居られたんですよね? ヘビは麻痺毒を持つ種類が大半だと思いますし、その毒も川に流れていたのではないかと」

 真相は分からないが、いずれにせよセシルの強化版竜巻で殆ど吹き飛ばされただろうし、蛙共々解決と思って良いだろう。
 それから、お昼ご飯を食べたり薬草を摘んだりしながら、夕方前に街へ着く。

「リュージさん、こちらへ」

 街の門で待ってくれていたララさんに連れられて商人ギルドへ行くと、小さな革袋が渡された。

「街の皆さんを診察してくださった診察代とポーションの代金です。それと、今日は是非街で泊まってくださいませんか? 街の人々がお礼を言いたいと話していましたので」
「ありがたい申し出なのですが、実は俺たちにも行かなければならない場所があるので、乗合馬車で次の街へ行こうかと」
「そうですか……プランC! そういえば、まだ王都とは乗合馬車が復活していないのに、森を抜けて来られたんでしたね」

 ララさんがプランCというよく分からない事を叫んだかと思うと、再び世間話となる。
 出来ればそろそろ乗合馬車の停留所へ移動したいのだけど、うだうだと思い出話みたいなのが続く。
 何だか、ララさんが俺たちを引き止めようとしている様にも思えた所で、

「……では、準備が整ったようですので、参りましょう。乗合馬車の停留所までご案内いたします」

 何の準備だ? と思いつつ、ララさんに促されてギルドを出る。
 すると、

「聖者様! ありがとうございます!」
「聖者様! またこの街へ来てくださいね!」
「聖者様! 貴方様の旅の無事をお祈りいたします!」

 大勢の街の人――主に女性がギルドから長い列を作って、叫んで居た。

「ララさん、これは?」
「本当は宿でおもてなしをしたかったのですが、急ぎの旅だという事でしたので、無理に引き止める事は出来ないかと思いまして」
「まさか、俺たちのために街の人を集めたんですか?」
「いえ。これからリュージさんが街を出るとお伝えしただけです。すると、リュージさんに助けてもらった人たちがせめてお礼を伝えたいと言い、こういう事になりました」

 ララさん。気持ちは嬉しいんだけど、出来れば普通に街を出たかったよ。

「あの、みんなが叫んで居る聖者様って?」
「もちろんリュージさんの事ですよ。街全体に流行っていた症状を治し、その原因となる魔物を退治してくださったのですから当然です」
「どうして街の人が、魔物を倒した事を知っているの?」
「それはもちろん、私が皆に言って回りましたから。リュージさんはこの街の救世主で、まるで聖者のようなお方だと」

 聖者なんて呼ばれているのはララさんのせいかっ!
 恥ずかしいからマジで勘弁して欲しい。
 乗合馬車に乗ってからも聖者コールが鳴りやまず、とはいえ隠れる訳にもいかず、引きつった笑顔で街を後にする事となった。
 乗合馬車が街から見えない場所まで移動し、やっと聖者コールが聞こえなくなった。
 診察料や薬代だって貰っているし、聖者だなんて呼ばれるような事はしていないというのに。
 街の人たちが気を遣ってくれたのか、御者のオジサンを除いて乗客は俺たち三人だけなので、やっと寛げる。
 一先ず、ララさんから手渡された小さな革袋を開けてみると、

「あれ? 見た事が無い硬貨だ」

 黒い硬貨が三枚入っていた。
 白金貨や金貨、銀貨や銅貨くらいまでは良く見るけれど、これがその下の鉄貨という物だろうか。
 日本円にすると、三十円くらいだと思うけど、街を立てなおすのにお金が必要だろうし、俺は金儲けの為にやった訳じゃ無いしね。
 とりあえず袋に入れておこうとした所で、

「リュージさん! それ、黒金貨じゃないですかっ!」

 アーニャが大きな声を上げる。

「知ってるの?」
「当然ですよっ! 世界共通硬貨の黒金貨ですよ! 普通の金貨百枚分の価値です」
「これ、鉄貨じゃないの!? というか、一番高額なのって、白金貨じゃなかったの?」
「鉄貨がそんな立派な訳無いじゃないですか! 白金貨も十分高額ですけど、黒金貨はその十倍ですってば!」

 という事は、黒金貨三枚で三百万円!?
 いやいや、流石にこれは貰い過ぎだよっ!
 返さなきゃ……と思っていると、

「お兄さん。街を救った感謝の気持ちなんだから、返すのは失礼じゃないかなー?」

 セシルから待ったがかかる。
 けど、エルフの王女様であるセシルからすれば、三百万円って大した事がないかもしれないけど、元ブラック企業のサラリーマンとしては、一年身を粉にして働いて、ようやく貰える額なんだよ。
 とはいえ、セシルの意見も理解出来るので、有り難く頂戴する事にした。
 しかし、異世界転移初日に貰ったお金と、ポーションを売ったお金に、この黒金貨。そこから食費などを差し引いても、日本円換算で六百万円くらいある。
 収入も沢山あったけれど、家賃というか、宿代が全く掛からないから支出も少ないから、このままだと溜まる一方ではないだろうか。

 ……あ、セシルたちの服を買うつもりだったのに、バタバタしていて忘れちゃってたよ。
 次の街では、今度こそ服を買わなきゃ。
 あとは、食料も買い足しておかないとね。
 アーニャが上手くやり繰りしてくれているけれど、そろそろ冷蔵庫に入っている食材も少なくなってきているだろうし……と、考え事していると、

――グレーグンの街の危機を救った事により、貢献ポイントが付与されました――

 どこかで聞いた事のある声が頭の中で響く。

――貢献ポイントが百ポイント付与されました。貢献ポイントが一定値を超えたので、城魔法の改修及び増築が行えます。リストから一つ選んでください――

 一方的に説明がなされた後、スキルで見かける銀色の枠が現れた。

『城魔法、改修及び増築リスト。
 拡大又は機能UP:診察室・調剤室・待合室・リビング・キッチン・お風呂
 部屋数追加   :三階
 増築      :屋根裏』

「マジで!? セシル、アーニャ! これを見て!」

 突然現れた城魔法のグレードアップに驚きながら、慌てて二人を呼ぶ。
 部屋の拡大や追加は分かるけど、機能UPってなんだ? リビングの機能UPって、何がどうなるんだよっ!

「お兄さん、突然どうかしたの?」
「いや、セシル。これだよ、これ。見てよ」
「何を?」
「何って、この銀色の……って、俺にしか見えないのか?」

 アーニャに同じ事を聞いてみても、「何か幻覚が見えているのですか?」と心配されてしまった。
 仕方が無いので、突如聞こえてきた話を伝えてみると、

「なるほどねー。噂には聞いた事があるよ。覚醒っていって、突然強力なスキルが使えるようになるんだってー」
「そうなんですね。リュージさん、凄いです」

 二人が喜び、俺を持ち上げてくれるんだけど、覚醒とは少し違う気がするのだが。
 とはいえ、これ以上謎の声の話をしても、また幻覚とか言われてしまうので、一先ず三人で生活している城魔法の、どれをグレードアップさせるかを話し合う事にした。

「あのお家をグレードアップ出来るんだ。凄いねー」
「うん。でも、さっき言った中から一つだけらしいんだ」

 一通り銀の枠に書かれた内容を話し、二人の意見を聞いてみた。

「ボクは何でも良いと思うよー」
「んー、アーニャは?」
「リュージさんのお家なので、リュージさんが思うようにすればよろしいのかと」

 アーニャの言う通りなんだけど、実際に使っている人の意見を聞きたいじゃないか。
 例えば、リビングはもっと快適な方が良いとか、キッチンにこんな機能があれば良いのに……とか。

「アーニャはキッチンに足りない物とか無い? 食洗機が欲しいとか」
「食洗機って、何でしょうか」
「いや、何でも無い。忘れて」

 コンロや冷蔵庫は普通に通じるのに、食洗機は通じないのか。
 この世界の技術水準は分からないけど、食洗機があれば、凄く楽になると思うんだけどね。
 キッチンの機能UPっていうのが食洗機とは限らないけどさ。

「セシルは、リビングや寝る部屋を、広くして欲しいとかって思いはない?」
「ボクは別にいいよ……むしろ、狭くしてくっつきたいくらいだし」
「ん? 何か言った?」
「何でも無いよー」

 何か小声で言っていたのは聞き取れなかったけど、セシルはゴロゴロしながらラノベが読めればそれで良いか。
 けど、リビングの機能UPって何だ? マッサージ機導入とか?
 でも、仮にマッサージ機が設置されたら、そこからセシルが動かなくなる気がする。
 この前みたいに、大量の患者さんが来るなら待合室を広くするのはアリな気がするんだけど、もうあんな事は起こって欲しく無いんだよね。
 街中の人が何かの病気に掛かってしまうような事件が起きて欲しく無いし、俺たち三人で大勢の患者さんを看るのも無理があるしさ。
 とはいえ、備えておくという意味では、候補に入るかな。
 だが実は俺の中ではこれというのがあったりする。
 セシルとアーニャから意見がなかったし、これにしてしまおう。

「俺は屋根裏にしようと思うんだ」
「それ? まぁお兄さんがそれが良いって言うのなら、構わないんじゃないかな?」
「正直、私の中では一番無い……いえ、リュージさんが決めるべきなので、宜しいのではないでしょうか」

 あれ? 屋根裏だよ? 超ワクワクしない? ロマンがあると思うんだけど。
 どうして二人が喜ばないのだろうかと、不思議に思っていると、

「えっと、屋根裏って隠れ家みたいだもんね。う、嬉しいなー」
「そ、そうですね。一人になりたい時にはうってつけですし」

 二人にフォローされてしまった。
 アーニャのは、フォローにすらなって居ない気もするんだけど、そんなに屋根裏はダメなのだろうか。
 でも二人は好きにして良いって言っているし……よし。屋根裏部屋にしよう!
 俺にしか見えていない銀色の枠の中から、屋根裏の文字をタッチすると、

――城魔法の増築を行いました。屋根裏が追加されました――

 増築完了の言葉が聞こえてきた。

「よし、増築出来たって。早速確認……って、馬車の荷台の中じゃ無理か。次の街へ着いたら、先ずは街を出るか空き地を探して、真っ先に確認しよう」

 一人でソワソワしながら馬車に揺られ、日が完全に落ちかけた頃に、

「聖者様、着きましたぜ。アヴェンチェスの街です」

 ようやく乗合馬車が停止し、次の街へと着いた。

「ありがとうございました」
「いえいえ、街を救ってくださった聖者様の為です。何て事はありません」

 よくよく話を聞くと、本当はもっと時間がかかる距離だったのだが、俺たちの為に急いでくれたそうだ。
 ありがたい……けど、喋る度に聖者って呼ぶのは勘弁して欲しい。

「この街には、大昔の円形闘技場が遺跡として残っているんです。有名な遺跡なんで、時間があったら足を運んでみてくださいよ」

 それだけ言って、御者の人が馬車と共に去って行った。

「お兄さん、闘技場だって。何だか面白そうだね」
「闘技場かぁ。やっぱり、そこで人が戦っていたんだよね?」
「多分ね。戦いに興味は無いけど、遺跡として見てみたいかな」
「そうだね。食料や服を買うついでに、ちょっと覗いてみようか……って、それよりも屋根裏を確認だっ!」

 暗くなった街の中で運良く広い場所を見つけたので、そこへ実家を呼び出し、就寝する事にした。
 翌朝、違和感を覚えて目が覚めた。
 セシルは……いつも通りだ。頭まで布団を被って、俺の隣で眠っている。
 アーニャは分からないが、一先ずここには居ない。
 じっとりと、何かが絡みつくような変な感じがするのだが、周囲を見渡してみても何も無い。
 では、一体何だろうか。

「ふゎー。お兄さん、おはよー!」
「おはよう、セシル……」
「お兄さん、どうしたの? 険しい顔になってるけど」
「いや、誰かに見られているような、視線を感じる気がしてさ。何だか寒気もするみたいだし」
「風邪をひいたのかな? お薬取ってこようか?」
「いや、薬ならすぐ取り出せるけど……これは、風邪なのか?」

 倉魔法でパナケア・ポーションを取り出そうとして、その隣にあった暗視目薬が目に留まった。
 何も居ないのに見られている感じがする。
 ガーネットの時の様に、Aランクの暗視目薬を使ったら何かが見えるだろうか。
 とりあえず暗視目薬を使ってみると、部屋の真ん中に日焼けし過ぎた感じのオッサンが居た。

「おゎぁっ! 誰!?」
「お兄さん? どうしたの?」
「幽霊が居るっ! こっちへ来るなっ! セシル、俺の後ろへっ!」

 キョトンとするセシルを抱き寄せ、俺の背中に隠した所で、オッサン幽霊がベッドのすぐ傍に居て、

「オレの姿が見えるのか?」
「近寄るなぁぁぁっ!」
「見えているんだな!? 頼む、話を聞いてくれぇぇぇっ!」

 深々と頭を下げられてしまった。

「え? 幽霊……だよね?」
「幽霊……まぁそんなもんだ。オレは昔この町で剣闘士をしていた、ヴィックというんだ」
「お兄さん? 誰とお話ししているの?」

 一先ず害意は無さそうなので、セシルにも暗視目薬を使ってもらった。
 ……しかし使ったのは目薬なのに、声まで聞こえるようになるのは、どうしてなのだろうか。
 とりあえずアーニャも呼んで、改めてヴィックの話を聞く事に。

「さっきも言ったが俺は剣闘士だったんだ。闘技場で己の腕と剣を頼りに魔物と戦い、見ている観客を楽しませる。危険が伴う代わりに身入りの良い仕事だ」
「凄い仕事ですね」
「あぁ。怪我をしても、死んでしまっても自己責任。中には借金を返す為、無理矢理剣闘士をやらされている者も居たが、俺は自ら剣闘士の道を選び、死んでしまった」
「それで成仏出来なかったと?」
「まぁな。というのも、魔物と戦って死んだのではなく、俺が毒を盛られて死んだからなんだ」

 えっと、毒を盛られて死んだ剣闘士が、成仏出来ずに幽霊となって家に出て来た……いや、出てこないでよ。

「オジサン。毒を盛られたっていうのは確かなのー?」
「あぁ。死んだ後、この姿ではっきりと見聞きしたからな。俺の妻となる予定だった女性を狙っていた男が、共謀した別の男と話しているのをな」
「そうなんだ」
「だが、その話を誰かに伝えられる訳でもないし、死んだ俺が生き返る訳でもない。せめて、恋人に気を付けろと言いたかったんだが……俺を追って自ら命を落としてしまってな」

 ど直球で聞いていたセシルも、話の顛末に沈黙してしまった。

「で、頼みっていうのは、俺を追って死んでしまった恋人の、形見になる物だけでも見つけて貰えないかと思ってさ」
「え? でも剣闘士って、大昔の話ですよね?」
「あぁ。だが闘技場の真下が墓地になっていて、今も遺跡として入れるんだ。俺の恋人が地位の高い貴族の娘で、その死を機に闘技場が閉鎖になったから、割と見つけやすいんじゃないかと思うんだ」
「だったら、ヴィックさんが行ってみては?」
「そうしたいんだが、途中で結界みたいなのがあって、この身体じゃ近づく事すら出来ないんだよ。頼む! 何でもいいんだ。服の端切れ、何かの装飾品、何なら骨でも良いんだ」
「……セシル、アーニャ。どう思う?」

 二人に話を意見を求めると、

「ボクは別に構わないけど……」
「わ、私も……手伝って、よ、良いと、思います……よ?」

 セシルは普通に、アーニャは引きつった笑みで協力しても良いと言う。

「分かった。一先ず協力するけど、危険だと判断したら即終了だからね?」
「ありがとう! 流石、闘技場のど真ん中で一泊するような方々は違うな!」
「えっ!? 闘技場のど真ん中? ここが?」
「あぁ。もう少し時間が経ったら、観光客が集まって来る時間だぜ」

 空き地を見つけたと思って城魔法を使ったのだが、どうやら遺跡のど真ん中らしい。
 暗かったとはいえ、ちゃんと確認しないといけないなと、反省する事になってしまった。
 幽霊剣闘士ヴィックの言う通り、外を見ると遺跡の様な場所の真ん中に家を出していた。
 人が集まる前にと、急いで家を出る。

「出し入れ自由な家か。様々な人を観察してきたが、こんなスキルは初めて見たぜ」

 とりあえず場所を変え、遺跡からそれなりに近い場所で観光客向けの露店があったので、朝食を注文したついでに話を聞いてみた。

「遺跡の地下? 入れるけど自己責任よ。昔は墓地として使われいたらしい……って事くらいしか知らないけど」
「いえ、ちょっと覗いてみようかなーって思っただけでして」
「そうなのかい? だったら夏頃においでよ。闘技場で亡くなった人たちのために、毎年ゴスペルコンサートをやっているからさ」
「そうなんですね。ありがとうございます」

 お礼を言って露店から離れると、

「今のコンサートなんだけど、あれ五月蠅いんだよなー」
「ゴスペルって神様の歌じゃないの?」
「歌の内容はそうだろうけど、歌っているのは一般人だから、何の効果も無いね」

 ヴィックが中々に辛辣な事を言う。
 聖なる歌とかって、日本でも結婚式とかで聞くけど意味ないのか。
 まぁあれは牧師さんもアルバイトの外国人だって言うし、雰囲気だけなんだろうけど。
 遺跡が見えるベンチで朝食を食べ終え、さて次だ……という所で、

「リュージ殿。そちらは娘さんで?」
「いや、違うから。大事な仲間だよ」
「なるほど。では、こちらの猫耳のお嬢さんは奥様?」
「いや俺は結婚してないから」
「なるほど。両手に花ですか。羨ましい」

 ヴィックが何かを盛大に勘違いて、一人でうんうんと頷いている。
 セシルはキョトンとしているし、アーニャは完全にスルーしているので、俺も放っておこうか。
 街の商店街へ移動し、アーニャが望む食料を買い込み、遺跡をどれくらいの時間探索するかも分からないので、すぐに食べられるサンドウィッチみたいな物も購入しておく。

「リュージ殿。では、いよいよ出発ですな?」
「いや、あと二人の服を買うから。ヴィックが急ぐ気持ちも分かるけど、これはこれで大事な問題だから、ちょっと待って欲しいんだ」

 セシルもアーニャも、同じ服を洗濯して着続けているし、下着は芽衣のものだからね。
 このまま遺跡の中へ入ってしまったら、また暫く服が買えないなんて事になるかもしれない。
 ヴィックには悪いけど、今度こそちゃんとした服を買ってあげないと。

「承知した。まぁ今まで待ってきた年月に比べれば、一日や二日なんて、ほんの一瞬だからな」
「流石に服を買うだけでそんなに時間は必要ないけど」
「リュージ殿、甘いですぞ。女性が服を買うとなれば、これ程までに時間の掛かる買い物など、そう無いですからな」

 ヴィックが恋人の事を思い出しているのか、遠い目になり、ちょっとげんなりした表情になる。
 愛する人の事を思い出しているはずなのに、そんな表情になるくらい時間がかかるの!?
 だけど、それはヴィックの恋人が迷う人だからじゃないかな? セシルやアーニャは、あまり服に拘る感じはしないんだけど。
 この二人ならすぐ終わるだろうと思いながら、街で見つけた服屋さんへ。

「二人共、ララさんから貰った報酬もあって、資金に余裕があるから好きな服を買ってきてよ」
「お兄さん、いいの?」
「リュージさん。私にまで宜しいのですか?

 困惑する二人に大きく頷くと、早速店内を見て回り、

「お兄さん。じゃあ、ボクはこれを」
「私も、これをお願いします」
「じゃあ会計を済ませようか」

 ほんの数分でそれぞれの服を何枚か選び終える。

「何故だっ!? ここから似たような服を何着も試着室へ持ち込み、一着ずつ着替えては感想を聞かれ、適当に答えたら拗ねられるという、無限地獄にハマるんじゃないのかっ!?」

 よく分からない叫び声をあげるヴィックをスルーしながら会計を済ませ、遺跡の地下へ向かう事にした。

 服を買ったついでに、近くにあった露店でランプを購入し、いざ遺跡の地下へ。
 暗視目薬があるけど、薬の効果が切れた時の為にね。
 ちなみに、当然だけど買った服もランプも、倉魔法で収納している。探索するに余計な荷物は持ちたくないしね。

「セシル、そこ段になっているから気を付けて」
「はーい」

 先頭をヴィックが進み、俺、セシル、アーニャと続くけど、幽霊の本領発揮と言うべきか、歩き難い場所も、ちょっとした岩も関係無しに、ヴィックがすいすい進んで行く。

「ヴィックは障害物を通過出来るんだ」
「まぁ幽霊だからな。なので、扉が閉まっていたリュージ殿の家にも入れた訳で」
「なるほど。じゃあ、この先に魔物が居ないか見て来てくれる?」
「いや、ここに魔物なんて居ないさ。今はまだ大丈夫だが、もう少し進むと外の光が届かなくなって、闇しかなくなる。草も生えないし、こんな所に来る人や動物なんて居ないから、魔物の類も寄りつかないんだ」

 あー、表現は悪いけど、魔物だって食べる餌が無い場所には来ないか。
 こういう場所だと、居たとしても暗闇が好きなコウモリくらいだろうけど、そういう暗所を好む魔物は居ないのかな?

「何となく想像している事が分かるが、ここには闇を好む魔物も居ないぞ。俺は何百年とここに居るから間違いねぇ」
「ヴィックがそこまで言い切るのなら、大丈夫だね」
「うむ。しかし三人共、既にかなり暗いはずなのに、よく歩けるな」
「あぁ、三人共そういう薬を使っているからね」
「なるほど。リュージ殿は薬使いと……お、見えてきたな」

 ヴィックに言われた先に、何やら半透明の檻のような物が見える。
 近寄ってみると、太くて荒い格子状の檻みたいな物と、薄い膜が道を塞いでいた。

「これが、例の結界だ。球状に囲っていて、俺が触れると火傷したみたいに痛みが走るんだ。で、痛みを我慢して無理矢理突破しようとしても、薄い膜みたいな物を越えられないんだ」
「これ、俺たちが触っても大丈夫なの?」
「大丈夫だろう。闘技場の死者を運びに来ていた奴は、全く気にした様子も無く通っていたからな。おそらく、見えてすらないだろう」

 Aランクの暗視目薬を使っているからハッキリ見えているけど、本来はここに結界がある事にも気付けないのか。
 とりあえず、試してみないと何も進まないので、恐る恐る手を伸ばして行く手を阻む膜に触れてみる。
 だけど、僕の手は何の抵抗も無く素通りしていった。

「確かに、何ともないね」

 結界の中へ入ったけど、息苦しいとか、痛みを感じるとかって事も全く無い。

「これ、アンデッド……幽霊とか不死の魔物が墓地から出ないようにしているんだと思うよー」
「という事は、中にはそういう魔物が出てくるの?」
「おそらくね。でも、ボクが居るから大丈夫だよー」

 魔物は任せて……と言いながら、セシルが俺に続き、

「ふ、二人とも! おいて行かないでくださいよっ!」

 慌ててアーニャが飛び込んできた。

「アーニャ。無理しなくても良いよ? そっちでヴィックと待ってる?」
「それはそれで怖いですよっ! 一緒に居てくださいっ!」

 アーニャががっちり腕を組んできた……というか、しがみ付いてきた。
 それを見たセシルが、何故か反対側の腕にしがみ付いてきたけれど、セシルは全然怯えてないよね?

「じゃあ、ヴィックはそこで待ってて。中の様子を見て来るよ」
「俺の恋人の名前はロザリーっていうんだ。頼んだぜー!」
「了解! 行ってくる」

 一先ずヴィックと別れて奥へ進むんだけど、セシルがグイグイと右腕を引っ張って前に進み、アーニャがギューっと左腕を締め付ける。
 そんな状態で暫く進むと、前からコツコツと何かが向かって来る音が聞こえて来た。

「セシル。何か来るぞ」
「うん。任せて」

 セシルのこの自信は非常に心強い。
 一先ず、相手が何かを見極める為に待ち構え――というか、アーニャが怖がって一歩も進んでくれなかっただけなのだが――その姿が視界に映る。

「うげっ! 剣を持った骨が歩いてる」
「スケルトンだね。死んでしまった剣闘士かな?」
「ひぃぃぃっ! セシルさん、リュージさん! 後は任せましたっ!」

 俺は任せられても何も出来ないよっ!
 テンパッているからか、余裕を見せるセシルではなく、全く余裕の無い俺が、もっと余裕の無いアーニャから盾にされてしまった。

 二人を守るんだ!
 意気込みはあるけど、冷静に考えてみると、相手は剣を持っているのに俺は丸腰だった。
 何かないかと考え、倉魔法から買ったばかりのランプを取り出し、スケルトンに向けて思いっきり投げつける。
 すると、コンと乾いた音を立ててスケルトンの頭にぶつかり、ランプが地面に落ちた。
 俺としては、ランプが割れて中の油がスケルトンに付着し、火が引火して燃え盛る……というのを想像していたのに、ランプは割れないし、スケルトンもノーダメージだし。
 何かしら武器を買うべきだったと後悔していると、

「お兄さん、下がって」

 セシルが突風を起こし、吹き飛ばされて壁に激突したスケルトンの骨がバラバラに崩れ落ちた。
 やっぱり武器より魔法の勉強かな?

「お兄さん、大丈夫?」
「あぁ、大丈夫だよ。……アーニャ、スケルトンはセシルが倒してくれたよ」
「ふぅ。ありがとうございま……」

 アーニャが突然固まる。
 何事かと思ってアーニャの視線の先に目をやると、セシルが吹き飛ばしたスケルトンの骨が震えだし、元の姿に戻ってしまった。
 ちゃんと剣を手にして、スケルトンが再びこちらへ歩いてくる。
 もしかして、アンデッドは魔法で倒せないの!?
 遺跡の地下なので、風でどこかへ吹き飛ばす事も出来ず、倒しても復活してくる。こんなのが大量に出て来たら……

「よし、撤退しよう! 作戦会議だ!」
「え? 一体しか居ないから平気だよ?」
「奥にもっと沢山居るかもしれないだろ? とにかく戻るよっ!」

 来た時とは逆で、乗り気ではないセシルを引き寄せ、一方で先陣を切って引き返そうとするアーニャに引っ張られる。
 走って追ってきたスケルトンから逃げ、結界の外へ。

「おかえり。どうだった?」
「中に骨の魔物が居たんだけど」
「なるほど。お嬢ちゃんの言う通り、この結界はそういうのを外に出さないようにするための物か。俺が中に入れないように、その魔物も外に出られないんだろうな」
「とにかく、一旦出よう。風の魔法で衝撃を与えて身体が崩れたのに、すぐさま復活してきたし」
「アンデッドを倒すなら、火を使うべきなんだろう」

 ヴィックは簡単に言うけど、洞窟みたいな場所で火を使って酸欠にならなければ良いけど。

「セシル、火の魔法で攻撃って出来る?」
「無理だよー。ボク、火の精霊は使えないもん」

 そういえば、そんな事を言っていた気もする。
 風で吹き飛ばし、復活するまでの間に無視して進んでも良いけど、後々大変な事になりそうだし、やはり倒す手段が欲しい所だ。

 遺跡から出ると、アーニャが嬉しそうにピョンピョンと跳ねて喜んでいる。
 やはり相当怖かったらしいけど、俺やセシルの視線に気付き、

「で、では作戦会議をしましょう。どこが良いですかね?」

 慌てて冷静な振りをする。

「家を出せそうな場所を探そうか」

 気付けば、闘技場の遺跡には観光客が居るし、この辺りから離れた方が良さそうだ。
 街の外で家を出して昼食を済ませると、リビングでゴロゴロ――はセシルだけど、ソファで寛ぎながら、意見を出し合う。

「火がダメなら、聖なる力的な物で倒せないかな?」

 日本のゲームの定番、アンデッドには回復魔法だったり、聖属性の武器や魔法が良く効くという設定を元に言ってみた所、

「聖なる力って?」
「え? 聖剣とか、聖なる魔法とか?」
「お兄さん。聖剣は国宝級のアイテムで、どこにあるかも分からないし、聖なる魔法……神聖魔法かな? は、教会の人が使う魔法だよー」

 今この場に無いよね? という話で終わってしまった。
 ちなみに、セシルは光の精霊魔法を使う事も出来るけど、攻撃向きの魔法は使えないのだとか。
 アンデッドを倒す方法って何があるだろうか。
 火はやっぱり酸欠の心配があるので除くとして、ゲームだと回復魔法の他には……

「あ! 回復系のポーションをかけてみたらどうかな?」

 これだっ! と閃いたアイディアを話してみた。
 だけどイマイチらしく、全員が微妙な反応を見せる。
 ……試しに、ヴィックへポーションを掛けてみたらどうなるだろうか。
 とりあえず確認したいと思い、調剤室にあるFランクのバイタル・ポーションをこっそり取りに行く。
 流石にAランクやBランクのポーションは強力過ぎる気がするからね。

「教会で聖水を買えないか交渉ですかね」
「教会か。この身体だし、入った事がないから何とも言えないな」

 アーニャとヴィックがアンデッド対策について意見を交わしている所で、トイレに行く振りをしてポーションを取って来た俺は、背後からヴィックにポーションを掛けてみた。
 だがポーションが床に落ちただけで何も起こらない。
 Fランクのポーションは、効果が弱すぎたのだろうか。
 ならば……と、倉魔法でBランクのバイタル・ポーションを取り出すと、ヴィックの頭の上からポーションを掛けてみた。
 しかし結果は同じで、ただただ床が濡れただけだ。

「リュージ殿。何をしているんだ?」
「いや、アンデッドにポーションが効くかもしれないから検証しようと思って」
「俺で試すの!? けど、ハッキリ言って何の効果も無いぞ」
「おかしいな。俺が聞いた話だと、ポーションでアンデッドを倒せるんだけど」
「ガセネタを掴まされたのさ。聖水とかなら別だが、普通の回復薬じゃダメだな」

 残念ながら、某ゲームと同じ効果は無かったか。
 でも、聖水は効果がありそうだな。

「ところで聖水って何なの?」
「教会に居る聖職者たちが浄化した凄い水じゃないのか? たぶん」
「浄化した水か。なら薬草から作れるんじゃないか?」
「いくらリュージ殿が薬師だとしても、聖水は無理なのでは? 回復薬は作れても、聖なる力はどうしようもないだろ」
「そうなんだけど……浄化っていうのが引っ掛かってさ。前にそういう効果がある薬を作った気がするんだ」
「治癒や浄化は教会の専売特許だから、治癒はともかく、浄化まで作れてしまったら……」
「思い出したーっ!」

 俺が突然大声を上げてしまったが、浄化の類のポーションを作った事がある!
 クリア・ポーション――アーニャの呪いを解いたポーションだ。
 呪いを解くって事は、回復や治癒とはまた違う浄化の効果だと思う。
 早速調剤室へ行き、クリア・ポーションを三つ程作ってみた。Aランクが一つとBランクが二つ。
 一先ずBランクのクリア・ポーションを持って皆の所へ。

「ヴィック。浄化効果があると思うんだけど、ちょっと試しても良い?」
「薬師が浄化効果のある薬を作れるとは思えないし、構わないぞ」
「なら、お言葉に甘えて」

 クリア・ポーションを入れた小瓶の蓋を開け、垂らそうとした所で、

「うぉぉぉっ!」

 ヴィックに逃げられてしまった。

「ヴィック。逃げたら効果の検証にならないよ?」
「悪かった。いや、触れなくても分かる。その薬はやべぇ! 触れた瞬間に昇天しちまうよ!」
「じゃあ、アンデッド対策になる?」
「なる。絶対に効くよ。俺からすると、やばいってもんじゃねぇ。リュージ殿たちには無害なんだろうが、即死級のやばさだ」

 検証は出来なかったけど、ヴィックがここまで言うのなら、きっと大丈夫なのだろう。
 流石に即死するって言われる薬をヴィックで試す訳にはいかないしね。

「じゃあ、クリア・ポーションを量産しよう。セシルは材料となるクレイエルの葉を探してきてくれないか?」
「オッケー。早速行ってくるねー」

 暇だったからか、セシルが軽い足取りで出て行き、

「アーニャは夕食の準備をお願い。俺はこれから調合作業をするし、セシルに取って来てもらった分も増えるだろうから、再挑戦は明日の朝にしよう」
「私としては、暫く行かなくても……いえ、何でもないです」

 アーニャがキッチンへと消えて行く。

「リュージ殿。俺は?」
「え? 特に無いかな」
「えー。何かあるだろ? ほら、情報収集とか」
「じゃあ、情報収集で」
「……何の?」
「いや、ヴィックが情報収集って言ったから……」

 ヴィックがしょぼーんとなっているが、幽霊で物に触れる事が出来ず、会話は俺たちとしか出来ない。
 薬草探しはセシルの方が得意だろうし、料理や調合の知識も無さそうなので、拗ねられても困るのだが。

「……そうだ! 今の俺にやるべき事が分かったぜ! はっはっは。明日の朝には戻る。待ってろよ!」

 どうしたものかと考えていると、何か閃いたらしく、ヴィックが笑いながら家を出て行った。
 ヴィックが家を出てから、ひたすらクリア・ポーションを作り続けていると、セシルが戻って来る前に材料が無くなってしまった。
 今回はセシルの魔法が効かない相手で、全ては俺の準備次第となる。
 なので、クリア・ポーション以外に有効そうな物が無いか薬草を片っ端から鑑定していくと、白秋桐という葉っぱが浄化作用を持つと分かった。
 その白秋桐を調合すると、ホーリー・インセンスというアイテムが出来たのだが……見た目がビー玉みたいなコレは、どうやって使うのだろう。
 とりあえず鑑定してみると、

『鑑定Lv2
 ホーリー・インセンス
 Bランク
 悪を祓う練香』

 この丸い玉はお香なのか。
 という事は、火を点けて煙を出す必要があるんだよね?
 後で、皆に火を点ける手段を聞いてみよう。
 この世界にもライターみたいなのが有れば良いんだけどね。

「ただいまー。お兄さん、いっぱい採って来たよー」

 ホーリー・インセンスの使い方を考えているうちにセシルが大量の薬草を持って帰って来たので、夕食が出来るまで、クリア・ポーションを作り続ける。
 その結果、三桁近い数のクリア・ポーションと、十数個のホーリー・インセンスが出来た。

「このホーリー・インセンスって、火を点けて使うお香なんだけど、火を点ける手段って何があるかな?」
「ボクは火を使わないから何とも言えないかなー」
「んー、松明とかでしょうか」

 セシルとアーニャに聞いてみたけど、ライターみたいに手軽で、安全に着火出来るアイテムは無いのか。
 松明を持って行くのは良いんだけど、危ないんだよね。
 暗視目薬があるから、必須でもないし。

「リュージさん。そのホーリー・インセンスって練香に見えるんですが、もしそうなら火が無くても大丈夫ですよ」
「そうなの?」
「えぇ。一つ貸してください」

 アーニャにホーリー・インセンスを渡すと、スッと手を動かしただけで、白い煙が立ち昇って来た。
 ただ、早過ぎて何をしたのか見えなかったけど。

「摩擦熱ですよ。ホーリー・インセンスを素早く壁に擦り付けただけです」
「素早く壁に擦り付けただけ……って、こんなの小さいのに?」

 アーニャの説明通りにやってみたけれど、ビー玉サイズのこれを、摩擦熱で煙が出る程早く壁に擦り付けるなんて俺には無理だ。
 という訳で、ホーリー・インセンスは全てアーニャに渡して、俺はクリア・ポーションに専念する事にした。
 クリア・ポーションは小瓶に入れているからかさばるし、倉魔法が使える俺が持つのが一番良さそうだしね。
 明日は朝から遺跡の地下へ再挑戦するけど、スケルトンが単体で現れたら、俺がクリア・ポーションを投げつける。
 複数出て来たらアーニャもホーリー・インセンスを投げ、万が一近寄られてしまったらセシルが風の魔法で吹き飛ばして、時間稼ぎをするという事になった。
 異世界へ来て初めて俺が主戦力となる事にドキドキしながらも、先ずはしっかりと睡眠を取り、朝を迎える。

「おはよう! リュージ殿、朝ですぞ!」
「うわぁっ! ……ヴィックか。驚かさないでよ」
「そんな事より、やりましたぞ! 今日、無事にロザリーの形見を見つけてくだされば、リュージ殿は一躍ヒーローですぞ!」

 何の話だっけ?
 昨日、ヴィックが自分にしか出来ない事をやると言って、どこかへ行って……まぁいいや。
 ヒーローとか言われても何の事か分からないけど、その時になったら、またヴィックが説明してくれるだろう。
 暫くするとセシルやアーニャも起きてきたので、朝食を済ませて暗視目薬を使用すると、

「よし! 今度こそ遺跡を攻略だっ!」
「おー!」
「お、おー」

 元気なセシルと、顔が引きつるアーニャと共に、再び遺跡の地下へ降りた。