「お兄さん、どうかしたの?」
「えっと、セシルってエルフの王女様なの?」

 俺の大声でセシルが話し掛けてきたので、ララさんからの話を本人に聞いてみた。

「あー、うん。そうだね」
「そっかー。セシルは貴族令嬢と思っていたんだけど、王女様だったのか」
「うん。お兄さんは、ボクが王女だって知って、どう思った?」
「え? 驚きはしたけど、別に何も……あ、もしかして言葉遣いとかを変えた方が良いとか?」
「ち、違うよ! 今のままでお願い」
「わかった」

 セシルは王女様か。どおりで身の周りの事が一人で出来ないはずだよね。

「セシルさんって王女様なんですか? リュージさんはともかく、私は言葉遣いを変えた方が良いですか?」
「今まで通りで良いって言っているし、別に良いんじゃない? 貴族令嬢だろうと王女様だろうと、セシルはセシルだしね」
「そーゆー事っ! 流石、お兄さん。というわけで、猫のお姉さんもボクに対して態度を変える必要は無いからねー」

 セシルからもアーニャに対して、今まで通りでと言っているし、気にしなくても良いだろう。

「さてと。お兄さんがボクの事を知らなかったから黙っていたけど、その気になればこの国の騎士団を動かすように要請出来たりするけど、どうする?」
「騎士団を動かせるなんて凄いね。冒険者ギルドはダメだったし、この街の危機だし、セシルが構わないなら騎士団に動いて貰うのが良いかもしれないね」
「分かったー。じゃあ早速国王宛てに手紙を書こうかな。商人ギルドで手紙が出せるよね?」

 セシルが王女だと知り、暫く固まっていたララさんだったけど、商人ギルドの話になってようやく我に返る。

「出せますが……正直に申し上げますと、王都向けの街道が未だ開通しておりませんし、手紙が王都へ着いたとしても、騎士団が通れる道がございません」
「あ、そっか。俺たちも森の中を通って来たんだった」
「なるほど。王都に居る騎士団を動かしても、到着するまで数日かかっちゃうんだ」

 この街を襲った症状の原因が水だと言っても、水を使わない生活が出来るのは、せいぜい一日か二日程度だろう。
 さて、どうしようか。

「ララさん。領主は何か手を打たれたんですか?」
「それがタイミングの悪い事に、領主様は地震が起こる前に王都へ行っていて、帰ってこられなくなっているんです」
「それは本当にタイミングが悪いね」

 ある意味では難を逃れたので、個人としては運が良いとも言えるが、領主という立場では運が悪いのか。
 自分の領地が大変な事になっているというのに、おそらく領主はそれも知らないんだろうな。
 そんな事を考えていると、

「だったらボクたちで行こうよ。ポイズンフロッグなんてボクが纏めて倒しちゃうよー」
「ララさんの話では、かなり数が居そうだけど、大丈夫なの?」
「もちろん。ボクに任せて」

 セシルが満面の笑みを浮かべて、自信たっぷりに頷く。
 確かに、セシルの魔法があれば蛙なんてへっちゃらなのだろう。

「じゃあ、そうしようか。あまり時間を掛けている場合では無さそうだしね」
「うん、それが良いよー」
「では、僭越ながら私が道案内をいたしましょう」

 セシルと共に蛙退治に出掛けようとした所で、ララさんも同行すると言ってくれたけど、この街を離れても大丈夫なのだろうか。

「ララさんが来てくれるのは心強いけど、街は大丈夫ですか?」
「はい。商人ギルドの職員も私だけではないですし、私一人が居なくても、街は大丈夫かと」

 ララさんは自分を過小評価しているけど、やっている事は凄いと思うよ?
 道案内があった方がありがたいのは確かだけどさ。
 ポイズンフロッグ? とかいう魔物だって、俺は見た事がないしね。

「ではすみませんが、協力をお願いいたします」
「それはこちらの方こそですよ。皆さん、よろしくお願いいたします」