「アンドレアさん。こちらは、流行っていた症状を治療してくれたリュージさんです。冒険者ギルドに依頼があるので、話を聞いていただけないでしょうか」
「治療? この兄ちゃんがか? 信じられんな」
「信じられなければ、その辺りを歩いている女性に聞いてみれば良いでしょう。リュージさんが優れた医者であると話してくれるはずです」
「医者ねぇ……まぁいい。依頼という事なら話を聞こう。中へ入りな」

 オッサンは、俺の事を値踏みするかのようにジロジロと見たかと思うと、顎で建物の中を示してくるが、初対面の相手に随分と失礼だな。
 一先ず冒険者ギルドの中へ入ると、商人ギルドとは違って人が――男が沢山居た。

「で、兄ちゃん。依頼っていうのは?」
「街の水源の川に、毒を持った蛙の魔物が居ると思われるので、それを排除してもらいたい」
「ほう。その魔物は何て言う魔物なんだ? どの辺りに何匹くらい居るんだ?」
「いや、具体的な魔物や数、場所は分からないが、間違いなく居るんだよ」
「おいおい、魔物が何かも分からない、何匹居るかも分からない、おまけに場所も分からない……って、それでどうやって冒険者に依頼しろっていうんだ」

 うっ……確かに。
 川に棲みついた蛙の魔物を、冒険者に排除してもらうのは良いアイディアだと思ったのに。
 何とかならないかと考えていると、ララさんが助け船を出してくれる。

「おそらくポイズンフロッグで、個々が持つ毒は小さいはずだが、これだけの被害を出している事を考えると、数十匹居ると思われます。場所はラーク川の上流かと」
「おそらく? 思われる? おいおい、ララさんよ。あんたは、こっちの素人の兄ちゃんと違って、元騎士様だろうが。そんな曖昧な情報で冒険者に動けってか」
「すみません。ですが、今この魔物を討伐しておかないと、数日後にはまた同じ事が起こってしまいます。今回は偶然リュージさんが通り掛かったおかげで助かりましたが、次も同じ偶然が続くとは限りません」
「だが確証は無いんだろ? 元騎士様は、不確実な情報で冒険者に死ねというんだな? まぁ元騎士様からすれば、冒険者なんて使い捨ての駒なんだろうがな」

 オッサンの発言でララさんが怒っているが、それよりも何よりも、俺が――キレた。

「ふざけるなっ! ララさんは街の人々の為に動いているんだろ! 街の緊急事態に、冒険者も騎士も関係ないだろう! 皆で協力して魔物を討伐しなければ、また街の人たちが苦しむんだっ!」
「調子に乗るなよ、青二才が。街全体の問題ならば冒険者の出る幕じゃねぇ。それこそ王国の騎士団や、領主に頼むべき案件だろうが! それに、そんな大きな依頼なら、当然依頼額も高くなるが、お前に払えるのか!?」

 俺の言葉にオッサンも言葉が荒くなり、まさに一触即発となった時、セシルが静かに口を開く。

「人間のオジサン。お兄さんに指一本でも触れたら、ボクが許さないからね?」
「あぁん!? 何だ、このガキ……セ、セシル様っ!? ど、どうしてこんな所に!?」
「ボクはお兄さんが気に入っているんだ。そのお兄さんに何かあったら……分かるよね?」
「で、ですが、そちらのお医者様やララ……殿の情報だけでは冒険者に依頼が出せないのも事実なのです。我々冒険者ギルドとしても、正確な情報を掴み、依頼の難易度を把握しなければ事故が起こってしまいますので」

 今まで俺の影に隠れていたセシルが顔を出した途端に、オッサンの態度が一変した。
 だけど、オッサンの言い分も良く分かり、セシルの――貴族令嬢の力でも、依頼は受けて貰えそうにないみたいだ。

「分かりました。この話は無かった事にしましょう。セシル、ごめんな。ララさんも一旦出ましょう」

 オッサンと周囲の冒険者たちの視線を浴びながら建物を出て、少し離れると、

「あ、あの……セシル様って、あのセシル=ルロワ様なんですか?」
「おそらくね」

 ララさんがこっそり聞いてきたけれど、俺だって正確には知らないよ。
 だけどモラト村でセシル=ルロワって呼ばれていたと思う。
 この世界の事は分からないけど、ルロワ家っていう貴族が居るのだろうか?
 そんな事を考えていると、俺の返事に驚いたララさんが、声を殺しながら再び尋ねてくる。

「リュージ様はセシル様とどのような御関係なのですか?」
「リュージ様って……とりあえず、セシルとは旅を共にする仲間だよ。もちろんアーニャも」
「でも、どうしてエルフの第四王女様が旅をされているのですか?」

 ん? ちょっと待った。
 今、ララさんは変な事を言ったよね?

「エルフの第四王女?」
「え? セシル=ルロワ様と言えば、あの有名なエルフの国の王女様ですよね?」
「えっ!? えぇぇぇぇっ!?」

 ララさんの発言で、今度は俺が驚いてしまった。