「もう大丈夫ですよ。念のため同じ薬をお出ししておきますので、もしも同じ症状が出たら飲んでください」
「お兄ちゃん。ありがとう」
「どういたしまして。それより君も気を付けてね」
男の子を連れたお母さんに治療が終わった事を告げると、何度も頭を下げて診察室を出て行く。
アーニャが次の人を呼ぶと、これまでの人と少しだけ違う診察結果が出た。
『診察Lv1
状態:蛙毒(弱)、麻痺毒(弱)』
二種類の毒を受けている!?
どちらも弱となっているのが不幸中の幸いだけど、どうしてこんな事になってしまったのだろうか。
当初想定していたのは、蛙毒にはキュア・ポイズン(B)で、麻痺毒にはキュア・パラライズ(B)だったのだけど、この場合はどうしたものだろうか。
薬を二つ飲んでもらうのか、二つの薬を混ぜた物を渡すのか。
しかし、今診ているお姉さんは細身だし、二つ分も薬を飲むのは大変な気がする。
「お待たせしました。ではこちらの薬を飲んでください」
なので、Bランクのパナケア・ポーションを出し、お姉さんが飲み切ると、
『診察Lv1
状態:健康』
無事にどちらの症状も治っていた。
一先ず大丈夫みたいだな。
「あの、貴方は二種類の毒に掛かっていたんですけど、何か毒を受ける様な心当たりはありますか?」
「毒……ですか? そんな心当たりは無いですけど」
「うーん。家で蛙を飼っているいるとか」
「飼いませんよっ! 気持ち悪いですし」
「家の近くに川か湖があるとか」
「ありません。家は街の真ん中です」
お姉さんが元気になって帰って行き、次の女の子や、次のおばさん、少女……と、大勢診察していく。
診察していて分かったのだが、殆どが蛙毒で、稀に麻痺毒があり、一人だけ風邪という人が居たりして……って、あれだけ作っておいたキュア・ポイズンが無くなってしまった。
途中で診察してから調合して、何とか患者さんを捌いていく。
「それでは、貴方も家の近くに川が無いんですね?」
「えぇ。この街は王都と同じく水道が完備されていて、家の中で山から流れ出る川の水が使えますから」
最後の一人を見送り、クリニックへ来た人は全員回復していった。
だけど、蛙毒が街に流行した理由が分からない。
「アーニャ、お疲れ様」
「凄かったですね。リュージさんもお疲れ様です」
「流石に喋り疲れたかな。それにキュア・ポイズンの材料となる薬草が無くなっちゃったよ」
「一先ず、食事にしましょうか」
「そうだね。悪いけどお願いするよ」
リビングに移動してアーニャと互いに労っていると、
「ただいまー」
薬草をいっぱい抱えたセシルが帰って来た。
「おかえり、セシル。沢山摘んできたんだね」
「うん。街の人皆に使うって聞いたから。同じ場所に生えている薬草を全て摘んでしまう訳にもいかないし、結構歩いたよー」
「そっか。丁度薬草が無くなった所だったから、本当に助かるよ。ありがとう」
「でも急がないといけないね。人が大勢待っているし」
薬草の束を受け取り、調剤室へ運んでいると、セシルが変な事を言う
「いや、もう終わったから平気だよ。これからアーニャと食事にしようって言っていたところだし」
「でも、これから街の人を診察していくんだよね?」
「もう終わったよ?」
「え? でもクリニックの入口に、沢山人が並んでいたよ?」
「えぇっ!?」
セシルに言われ、慌ててクリニックへ移動すると、入口の向こう側に大勢の人だかりが見える。
「さっきので全員じゃなかったの!?」
「お兄さん。ボク、薬草を探していて分かったんだけどさ、この街……結構大きいよ?」
「という事は、今もララさんが街を回って、ここへ来るように言っているって事?」
「たぶん。皆辛そうだし、移動するのにも時間が掛かるみたいだから、まだまだ来るんじゃないかな?」
「な、なんだってー!」
一先ずセシルに受付をやってもらい、キュア・ポーションを調合しながら診察をしつつ、合間に軽食を食べる。
暫くしてセシルとアーニャに交代してもらい、セシルに摘んできた薬草の整理をしてもらって……うん。何度も何度も診察を使ったからか、途中で診察レベルが上がったよ。
レベルが上がっても表示される内容は変わらないけどさ。
「終わった? 皆、お疲れ様……」
「お兄さん……ボク、眠いよ」
「……お風呂、お風呂に入りたいです」
最後の患者さんが帰った後、俺たちはクリニックの待合室で泥の様に眠ってしまった。