「待ってください。落ち着いてください」
「ちゃんと代金は支払いますので、分けてください。少しで良いんです。持っていませんか?」
「ポーションはありますから、先ずはこの街に何が起こっているのか教えてください」
胸の大きなお姉さんだし、顔色が普通で、危機迫る感じでなければ嬉しいやり取りだったのだろうけど、流石に怖い。
一体、この街に何があったのだろうか。
ポーションがあると言ったからか、少し落ち着いたお姉さんが、ギルドの奥にある商談席へ案内してくれたんだけど……ギルドの中にも殆ど人が居ないな。
一応、ギルド職員らしき人が見えるけど、俺たちを珍しそうにチラチラ見てくる。
「先ずお聞きしたいのですが、お客様方はどちらから来られたのですか?」
「モラト村ですが」
「モラト村!? では、先日の地震で崩れた街道が通れるようになったのですね!」
「違うんです。街道が通れないって聞いたので、俺たちは森の中を突っ切って来たんです」
「あの迷いの森を通って来たと……街道が通れるようになった訳では無かったんですね」
迷いの森? 薄暗くて同じ風景ばかりだから、俺もセシルが居なければ迷っていそうだけど、そんな名前で呼ばれていたのか。
しかし、街道が通れない話をしたら、お姉さんが物凄く落ち込んでしまったな。
「あの、大丈夫ですか? 気分が優れないのでしたら、先にポーションをお渡ししましょうか?」
「いえ、私は大丈夫です。ですが、数日前に起きた地震の後から、街の人たちの体調がどんどん悪くなって、何かの呪いではないかと、怖がって人が外に出なくなってしまったんです」
「地震の後に呪い……ですか?」
「呪いというのは、あくまで街の人たちが言っているだけですが、体調が崩れていっているのは本当なんです。幸い亡くなった方はいませんが、寝込んでしまってた方もおられまして」
ふむ。一応アーニャの呪いを解いた事もあるし、あの時のポーションを作ってみようか。
「お兄さん。これって、何かの病気とか流行病じゃないの?」
「その可能性もあるね……って、俺たちもこの街に居て大丈夫か!?」
「待ってください! この街がこういう状態なので引き止める事は出来ませんが、せめてポーションを……ポーションを売ってください」
せっかく落ち着いていたお姉さんが、再び取り乱して迫って来た。
胸が……胸が当たってるってば!
「先ずは呪いか病気かを調べさせてくれませんか? それによって効くポーションが異なるので」
何とかお姉さんを引き剥がし、何のポーションが欲しいのかを聞くと、目を大きく見開いてキョトンとされる。
「調べるって、どうやってですか?」
「あのね、お兄さんは凄い薬師でありながら、お医者さんでもあるんだよー」
「えっ!? 薬師様でお医者様なんですかっ!? お願いしますっ! お金は出来るだけ用意いたしますから、この街を救ってくださいっ!」
お姉さんが俺の手を握り、目をキラキラさせながら見つめてくる。
でも俺は、医者は医者でも、お医者さんごっこなんだよな。
しかし、困っている人が大勢居るというのなら、放っておくわけにはいかないか。
「アーニャ。少しだけ、この街に滞在しても良い?」
「もちろんです。目の前に困っている人が居るのに、見捨てられないですよ」
「わかった。……お姉さん。先程言った通り、何のポーションが効くのかを知りたいので、誰か症状が出ている方を紹介してくれませんか? ……出来れば、男性の方で」
俺のスキル、お医者さんごっこ「診断」は、触診――胸を触らないと発動しない。
緊急事態なら別だけど、出来るだけ変なトラブルを起こしたくないんだよ。
「男性ですか? 探せば居るかもしれませんが、症状が出ているのは、体力の少ない女性や子供が圧倒的に多いんです」
「そうですか。では男の子を……」
「あの、私ではダメですか? まだ軽い方ですが、同じ症状ですので」
「こっちは構わないんですけど、その……」
「では決まりです! 症状が分かれば、ポーションを売っていただけるんですよね? でしたら、今すぐ私を調べてください」
お姉さんがぐぃっと詰め寄って来たので、思わず視線が大きな膨らみに行ってしまう。
とはいえ、お姉さんが言っている事は間違っていないし、仕方ないか。
「では調べるので、ついて来てください」
「ここではダメなんですか?」
「えぇ。調べる為の設備が必要なので」
街の為にと、お姉さんが俺について来るけど、これから何をするか分かっていアーニャにジト目で見られながら、俺は適当な空き地で実家を呼び出した。