「じゃあ、お兄さん。先にお風呂へ行ってくるねー」
「リュージさん。行ってきますね」
「はーい。ごゆっくりー」
夕食を済ませてから一休みし、セシルとアーニャがお風呂へ。
一方の俺は、またもや調剤室に。
というのも、薬草を調合したら隠蔽魔法とやらを見破る目薬が出来たり、物凄く効果の高い滋養強壮剤が出来たりした訳だし、もしかしたら、黒魔法が使えるようになる薬が作れるかもしれないと思ったからだ。
流石に黒魔法が使えるようになる……というのは難しいかもしれないけど、魔法の代わりになるような攻撃系のポーションが作れたら良いなと。
とはいえコメディにありがちな、調合に失敗してボンッ! という爆発は絶対に避けなければならないけど。
「ん? これは?」
鑑定しても、当然ながら薬になる物ばかりが並んでいるので、普段とは逆の順番で鑑定をしていくと、気になる植物を見つけた。
『鑑定Lv2
金香樹
Bランク
シャンプーの材料』
化粧水に続き、シャンプーとは。
でも化粧水があるのだから、シャンプーがあっても変ではないか。
だが、今使っている元から実家にあったシャンプーを使い切ったとしても、新たに作れる事が分かった。
ただ、そもそもセシルはシャンプーの使い方を分かって居ないだろうけど。
今日アーニャがセシルに身体の洗い方を教えるはずだから、これからはちゃんと使ってくれるだろう。
それから暫く鑑定を続けてみたけれど、残念ながら攻撃的な材料が見つからない。
「良く考えたら薬を作る場所なんだから、危険な物が有る訳ないか」
結構な時間を費やしてようやく気付いた所で、
「お兄さーん。どこー? お風呂上がったよー」
これまでとは違い、それなりに時間が経ってからセシルの声が響いた。
「セシルの白い肌が、ほんのりピンク色に染まっているね。ちゃんと肩まで浸かって温まったんだね」
「うん。ちょっと熱い気もしたけど、頑張ったよー」
お風呂は頑張る物ではないのだけれど、まぁ良しとしよう。
「リュージさん。お先にお風呂をいただきました」
「ありがとう。じゃあ、俺も行ってくるよ」
入れ替わりで浴室へ入り、先ずは頭を洗おうとしてふと思う。
「シャンプーが減っている気がしないんだけど、あの二人は使ったのかな?」
ちょっと気になったので、脱衣所の扉から顔だけ出して、アーニャを呼ぶ。
「アーニャ。ちょっと来てくれないか」
「リュージさん、どうされ……もう気が早いですよ」
「何が?」
「こういう事は、先ず夜伽を済ませてからにしませんか?」
「何の話だよっ! 違うってば!」
初めて会った時は、アーニャはこんなキャラじゃなかった気がするんだけど。
猫耳族だけに猫を被っていたのか、それとも恋愛漫画の影響なのか。
まぁ別にどっちでも良いんだけどさ。
「アーニャ。さっきセシルとお風呂へ入った時に、シャンプーを使った?」
「シャンプー? って何ですか?」
「なるほど。アーニャ……髪の毛を洗う時に使うと、とても良く汚れが落ちる上に、髪の毛から良い匂いがするアイテムがあるんだけど、使う?」
「そ、そんな素晴らしいアイテムがあるんですかっ! 使いますっ! 使いたいですっ!」
「分かった。分かったから、一旦落ち着いて。とりあえず、今これ以上脱衣所の扉を開けるのは勘弁して。あと、使い方を教えるから、セシルも呼んで来て」
「分かりましたー!」
コンロや水道は普通に使えるのに、シャンプーは存在を知らない……うーん。異世界の文化水準が良く分からないな。
逆に、魔法を使えないアーニャが魔力を流せるのに、城魔法を使える俺が魔力の流し方が分からないのは何故? とアーニャが思っていそうだが。
「リュージさん! セシルさんを呼んできましたー!」
「お兄さん。髪の毛が綺麗になるって聞いたんだけどー」
「じゃあ、こっちへ来て」
腰にタオルを巻き、二人を連れて浴室へ入ると、小瓶に入っているシャンプーを使って、実際に頭を洗ってみせる。
「……と言う訳で、この泡が沢山出れば出る程、いっぱい汚れが落ちてるって訳だ」
「あー、うん。シャンプーっていう名前は知らなかったけど、これならお家でやってもらってたよー」
セシルは予想通りシャンプーの存在は知っていた。
エルフの貴族令嬢だもんね。
使い方は知らなかったみたいだけど。
一方のアーニャはというと、
「髪の毛が綺麗に……リュージさん。早速使ってみても良いですか?」
「構わないけど、今すぐ!? 待って! 俺が出てからにしてっ!」
アーニャがこの場で服を脱ぎだしかねない勢いだったので、大急ぎで風呂を出る事に。
その後、アーニャが凄く満足そうな表情で出て来たから、教えてあげて良かったと思うんだけど……化粧水は教えない方が良いかもしれない。
化粧水の存在を知ったら、めちゃくちゃ拘りそうだし。今でも十分綺麗な肌なのにさ。
ガーネットの依頼で化粧水を作った時に、アーニャが料理の準備をしてくれていて良かったよ。
そんな事を思いながらセシルと共に就寝したのだが、翌朝に想定外の事態が起こってしまった。