「ここはどう?」

 妖精さんに案内された先は、森の中にあるちょっとした隙間のような空間だったので、城魔法で家を出すと、皆で中へ。

「リュージさん。丁度お昼時なんで、食事にしませんか?」
「いいね。じゃあ、アーニャは昼食の準備をお願い。俺は妖精さんに頼まれた薬を作ってくるよ」

 アーニャがキッチンへ向かったので、いつものようにセシルがリビングでラノベを読むのかと思ったら、

「お兄さん。ボクにも妖精さんが見える薬をくれないかな。ボクも妖精さんを見てみたいんだ」
「いいよ。少し多めに作ったからストックもあるし、調剤室へ来てよ」

 調剤室にある暗視目薬(A)をセシルが使い、

「……うわ。ホントに居た!」

 俺と同じく妖精さんが見えるようになったらしい。

「初めまして、エルフさん。妖精を見るのは初めて?」
「ううん、二回目だよ。小さい頃に一度会った事があるんだけど、その妖精さんは緑色の髪の毛だったんだ。それに、顔や姿も違うと思う」
「そうだね。妖精にも種族が幾つかあるし、髪型や服装、髪の色だって、それぞれだからねー」
「そうなんだ。うーん、ボクが会った妖精さんは何て名前だったかなー?」

 セシルの小さい頃……って、本当に何歳なのさ。
 俺からすれば、今のセシルも十分に幼いからね?
 セシルと妖精さんが話をしている間に、サクッと薬が出来た。
 念のため、求められている効能があるかどうか鑑定を行ってみると、

『鑑定Lv2
 フェイス・ローション
 Bランク
 植物性化粧水』

 効果の説明が、化粧水ってどうなんだ?
 この世界に化粧水があるなら通じるだろうけど、俺に化粧水の説明をしろって言われても困るんだけど。

「出来たよ。ビンに入れれば良いかな?」
「うん、お願い。ところで、この液体はどうやって使うの?」
「……朝起きた時と、夜の寝る前かな。顔を洗った後に顔へ付ける事で、肌に潤いを与えるんだ」

 とりあえず、化粧水の使い方を何となく喋ってみた。
 使った事が無い俺からすれば、頑張ったと思うのだが……合って居るかどうか、若干不安だな。

「なるほどねー。肌に潤い……私も使ってみても良いかしら?」
「構わないけど、君は十分可愛いし、肌も綺麗だから要らないんじゃない?」
「あはは。人間さん、お上手ね。でも女性は。より綺麗さを求めたい生き物だからねー」

 そう言いながら、妖精さんがペチペチと化粧水――もとい、フェイス・ローションを顔に付ける。

「これ……凄いわ! 上手く言い表せないけど、凄くしっとりしてる」

 そんなにすぐ効果があるのか?
 Bランクだからか?
 良く分からないけど、妖精さんが気に入っているみたいだから、良しとしよう。

「人間さん、ありがとう。今は何も無いけれど、後で必ずお礼をしに来るから……えっと、お名前は?」
「俺はサイトウ=リュージっていうんだ」
「リュージさんね。私は妖精の中でもピクシーっていう種族で、ガーネットっていう名前なの」

 そう言って、ガーネットがフェイス・ローションを入れた小瓶を抱きしめる。

「リュージさん、本当にありがとう。実は私を含めて、沢山の妖精が大量の玉章の花粉を集めさせられていたんだけど、これで当分集めなくても良さそうよ」
「そういえば、最初は凄く悲壮な顔をしていたけれど、何があったの?」
「何があったというか、私たちのノルマなのよ。妖精の女王が肌荒れを気にしていて、大量の玉章の花粉を集めろって言われててねー」
「何だか大変そうだね」
「それはもう。とにかく人使いが荒くて、自分は指示を出すだけで、王宮から一歩も動かないんだから」

 あー、分かる。
 俺が日本でサラリーマンをしていた時も居たよ。
 口だけ出して、自分では何も出来ない上司とかね。

「女王様が最後に外出したのは何年前かしら? 確かエルフの子供に加護を……」
「あ、思い出したー! そう、加護だよ」

 ガーネットが更なる愚痴を言いかけた時、セシルが突然大きな声を上げる。

「セシル、加護って?」
「うん。ボクが小さい頃に、ティターニアっていう妖精さんが来て、妖精の加護っていうのをくれたんだー」
「そうなんだ。ガーネット、ティターニアっていう妖精は知り合い?」

 セシルが口にした妖精の名をガーネットに尋ねると、

「あ、あはは。貴方があの時の……じゃ、じゃあ、そういう事で! リュージさん、お薬本当にありがとう!」
「え? 妖精さん? どうして突然帰っちゃうの? お兄さん、何があったの!?」

 ガーネットが慌てた様子で帰って行った。
 たぶん、セシルが小さい頃に会ったというティターニアが、妖精の女王なんだろうな。
 ……ところで、妖精の加護ってなんだろう。
 そう思った所で、リビングから昼食が出来たというアーニャの声が聞こえてきた。