休憩を終え、再び森の中を歩いているのだが、ポーションの効果のおかげで疲労感が全く無い。
 更に目薬の効果で、薄暗いはずの森の中が、街道を歩いていた時の様にはっきりと見えるので、変な所で躓いたり、謎の物音に怯える必要が無くなった。
 ポーションを作って正解だったな。

「お兄さん。休憩が良かったのかな? 何だか、随分と足取りが軽いね」
「あはは、まぁね。セシルの言う通り、休憩が良かったんだと思うよ」

 本当は思いっきりポーションの力に頼っているんだけど、それはさて置き、エルフのセシルと獣人族のアーニャに負けず劣らずのペースで歩いていると、何やら変わった生き物を見つけた。
 その生き物は、掌大の小さな人形みたいな女の子の姿をしていて、背中から蝶々を思わせる羽が生えている。
 所謂ファンタジーの定番とも言える妖精で、森の中に生えている青白い花を飛び回り、何かを集めているみたいだ……と、ここだけ見れば、凄くメルヘンチックな雰囲気なのだが、残念な事に、その妖精の顔に悲壮感が漂っている。

「セシル。あそこに妖精みたいなのが居るんだけど、あの娘、大丈夫かな?」
「えっ!? 妖精!? お、お兄さん。どこに居るの?」
「どこ……って、すぐそこの茂みにいるよね? ほら、今も隣の花へ移動したし」
「えぇっ!? すぐそこの茂み……って、何も居ないよ?」

 あ、あれ? セシルには妖精の姿が見えないのか?
 目と鼻の先に居るんだけど。

「アーニャは、そこの花に顔を突っ込んでいる妖精が見える?」
「……すみません。ちょっと何を言っているか分からないです」
「じゃあ、この丈の短いワンピースを着ている、人形みたいな赤毛の女の子は幻覚なの?」
「リュージさん。さっき、森の中でポーションの材料になるからって、セシルさんと一緒にキノコを採っていましたけど、まさかそれを食べたんですか!?」
「食べてないよっ! というか、アーニャが美味しいご飯を作ってくれるのに、拾い食いなんてしないってば」

 マジで俺にしか見えてないの?
 掌程の大きさだけど、幻とは思えない程の存在感なんだけど。
 何やら一生懸命に花の中へ手を突っ込んで居る妖精に、静かに指を伸ばすと、

――ムニン

 ほら、ワンピースからスラリと伸びる太ももが、柔らかくもハリがある弾力を返してきた。

「――ッ!?」

 そう思った瞬間、妖精がビクッと後ろへ下がり、顔面蒼白になりながら俺の顔を見上げて来る。

「ご、ごめん。集めていた黄色いのが落ちちゃったね。驚かせるつもりはなかったんだ」
「……?」
「ただ、君の事が見えないって言われたから、本当に居るのかどうか触って確認したくなちゃって。本当にごめんね。はい、これ」

 落ちた黄色の何かを指で摘まみ、渡そうとすると、小さな手が恐る恐る伸びてきて、受け取ってくれた。

「お、お兄さん? 一人で何をしているの?」
「一人じゃないって。ここに妖精みたいな可愛い女の子が居るんだよ」

 セシルが大丈夫? とでも言いたげに俺の顔を覗き込んで来る。
 いや、違うんだ。本当に、妖精が居るんだって。

「……か、可愛いって、私の事?」
「え? うん、そうだよ。可愛い妖精さん」

 ほらほら、ついに喋ってくれたよ。
 というか、言葉がちゃんと通じているんだね。

「お、お兄さん!? 今の声は何!? 随分と高い、女の子みたいな声だったけど、誰の声なの!?」
「……まぁ、普通はこっちのエルフさんみたいになるよね。ねぇ、そこの人間さん。どうして私の事が見えるの?」
「どうしてって聞かれても普通に見えるから……あっ! もしかして、あの目薬のせいかな? Aランクだったし、凄い効力があったのかも」

 混乱するセシルの前で、妖精と俺が話をし始めたからか、アーニャと共に目を白黒させている。
 あの目薬……暗い場所が見えるようになるだけじゃなくて、本来見えない物まで見えるようになっていたって事か?

「お兄さん。そういえば、さっきの休憩中にお薬の部屋に籠ってたよね。何かポーションを作ったの?」
「うん。暗くて歩きにくかったから、暗視効果がある目薬を作ったんだけど……見えすぎちゃったみたいだ」

 本当は滋養強壮なんかのポーションも作って飲んだんだけど、体力が無いと思われるのはちょっと嫌なので黙っておこう。

「待って! 人間さんは薬が作れるの? しかも、隠蔽魔法を使っている私の姿が見える程の強い効果がある薬が」
「え? まぁ、一応は」
「じゃあ、私が集めていた、この『玉章の花粉』に肌を綺麗にする効果があるんだけど、これをもっと強い効果に出来ないかしら?」
「多分出来ると思うけど、もう少し広い場所じゃないと、薬が作れないんだ」
「広い場所があれば作ってくれるの!? じゃあ、こっちこっち。ついて来て」

 突然現れた妖精さんに薬を作ってくれとお願いされ、セシルとアーニャを連れてついて行く事にした。