セシルを無理矢理起こし、アーニャに身の潔白を証明して三人で朝食をとる。
 相変わらずアーニャの作ってくれる食事は美味しいのだが、変な汗が出るのは何故だろうか。
 何も後ろめたい事は無いはずなんだけど、無意識にいろいろと考えてしまっているのかもしれない。

「ごちそうさまっ! さぁ、お兄さん。いよいよ森だね。楽しみだね」
「お、おぅ。そうだねっ! 森の中は自然がいっぱいで良いよね」

 何とか気分を変えようと、セシルの言葉に便乗すると、

「リュージさんは、あまり森の中へ入りたがっていないような感じがしたのですが」
「ち、違うよ? 夜の森はどうかなって思っただけで、そんな事は全くないよ? いやー、森林浴って良いよね。さぁ張り切って行こう!」

 アーニャが訝しげな表情を向けてきたけれど、何とか勢いで乗り切った。……乗り切ったと思う。
 別にアーニャが何か言ってきた訳ではないんだけど、「俺は変態じゃないんだ。朝起きたら、セシルが俺の胸で寝ていただけで、無実なんだ」と心の中で言い訳をしてしまう。
 一方で、当のセシルは早く行こうよーと、俺の腕に抱きついてくる。
 無邪気に喜んでいるだけなんだけど、女の子なので、もう少しボディタッチを減らしてくれた方が良さそうなのだが。
 一先ず朝食の後片付けを手伝い、出発準備が整ったので、セシルを先頭に森の中へと入って行く。

 大きな森だとは思っていたけれど、広さだけではなく、樹木の一本一本も太く、背が高い。
 上の方で葉が生い茂り、陽の光が殆ど届かないのだが、

「二人とも、次はこっちだよ」
「そこに窪みがあるから足元に気を付けてね」
「お兄さん。そこに生えている草は薬草だよ。少し摘んでいこうよ」

 セシルは夜目が効くのか、薄暗い森の中でも普段と変わらぬ歩みを見せる。

「ふぅー、お兄さん。やっぱり森の中を歩くのは楽しいねー」
「そ、そうだね」
「うん。だけど楽しさのせいで、つい歩き過ぎちゃって、休憩を忘れちゃうけどね」

 確かに、随分と歩いた。
 二時間くらい歩きっぱなしだったのではないだろうか。
 正直、俺は脚がメチャクチャ痛いし、物凄く疲れているのだけれど、それでもセシルはまだまだ余裕がありそうだ。

「……って、しまった。結構歩いたけど、アーニャは大丈夫?」
「私ですか? この程度でしたら全然大丈夫ですが」

 あー、そういえばアーニャは獣人族だから体力はあるって言っていたね。

「お兄さん。結構歩いたし、一度休憩にする? その先に、少し開けた場所があるんだ」

 アーニャへの気遣いのつもりだったけど、逆に俺が気を遣われてしまい……だが、少し疲れているので、城魔法を使って家を出す。
 一先ず、この森の中で薬草を沢山拾ったし、疲労回復と体力向上のポーションが作れないか挑戦してみよう。
 セシルやアーニャが一休みしている中、俺は調剤室へ移動し、並べられた薬草や薬を鑑定していく。
 暫く鑑定を使っていると、滋養強壮や持久力、夜盲症に効くという複数の薬草を見つけたので、とりあえずそれぞれを調合してみる事にした。

「お、それっぽい効果の薬草を調合したら出来たな。出来たのは……ナリッシュメント・ポーション? 何だこれ?」

 だが、名前から効果が想像出来ないので、すぐさま鑑定してみる。

『鑑定Lv2
 ナリッシュメント・ポーション
 Bランク
 滋養強壮効果がある』

 要は栄養ドリンクだって事だよね?
 とりあえず、かなり歩いて疲れているし、早速飲んでみよう。

「……あ、熱い!? 身体の中から力が湧いてくるみたいだけど、大丈夫なのか?」

 実際の効果は分からないけれど、効いている感じはする。
 いざという時にあれば便利そうだし、材料も豊富にあるので十本分くらい作っておいた。

「よし、どんどん作るぞ」

 気合が入った所で、持久力の効果があるタレハ草という薬草を調合すると、エンデュランス・ポーションというBランクのポーションが出来た。
 これも鑑定してみると、元の薬草と説明が同じなのが残念だけど、効果は上がっているのだろう。
 先に飲んだ滋養強壮効果があるので、こっちは飲まずに、ストック用として十本作っておいた。
 次は、夜盲症に効くというサエグサの花を調合してみると、暗視目薬(A)というアイテムが出来た。

「目薬か……初めてポーション以外のアイテムが出来たな。とりあえず、使ってみるか」

 とりあえず使って窓から外を覗いて見ると、薄暗かった森の中が照明が点いているかのように明るく見える。
 これは、夜に活動する事があれば役立ちそうだなと、一気に二十本くらい作った所で、

「お兄さーん。そろそろ出発しても良いー?」

 休憩が終わり、移動を再開する事になった。