脱衣所で早速セシルの服を脱がそうと手を掛け、途中で止める。

「あれ? お兄さん。どうして止めちゃうの?」
「いや、せっかくだから、服を脱ぐ所から自分でやってもらおうかと思って」
「えぇーっ! ボク、昨日一人でお風呂へ入ってって言われて、物凄く苦労したんだけど」
「だからこその練習だよ。ほら、やり方を教えながら俺も一緒に着替えるからさ」

 口を尖らせるセシルを前に、先ずは俺がTシャツを脱ぎ捨てる。
 セシルも同じように頭から被るタイプの服なので、先ずは両手で裾を握らせる。

「そう、その一番下の部分を持って、そのまま真上に持ち上げるんだ」
「……お、お兄さーん! 服が、服がぁー」

 裾を持ったまま腕を上げ、首まで上がった所でセシルがあたふたと助けを求める。
 シャツで顔が隠れ、胸から下が出てるって、子供かよ……いや、子供なんだけどさ。
 仕方がないので上からシャツを引っ張り上げると、ようやくセシルの顔が出て来たのだが、普段は金色の髪の毛で隠れている耳がチラリと見えた。
 ……一瞬、耳の形がちょっと変な気がしたけれど、あまりそういう事には触れない方が良いだろう。

「じゃあ、次はズボンだな。といっても短いズボンだし、これは頑張ってみよう」
「ちょ、ちょっと待っててね」

 一応お手本? として先にズボンを脱いで見せたけど、セシルは短パンを脱ぐのに、座り込んじゃったよ。
 今まで一人で着替えた事が無いとはいえ、この年齢で幼稚園児みたいな着替え方は見ている方もちょっと辛い。
 ここは心を鬼にして一切手伝わずに自力で脱いでもらおう。

「お、お兄さーん」
「シャツよりは簡単だから、頑張って」

 半泣きのセシルが膝くらいまで短パンをずらしたので、白いパンツが丸見えになっているのだが、前に可愛らしいリボンが付いていて、思わず噴き出しそうになってしまった。
 ……うん。俺が芽衣のパンツを履かせたんだから、ここで笑うのはおかしい。
 今更だけど、村に居る間にセシルの服も買っておくべきだったな。
 改めてセシルに申し訳ないと心の中で謝るが、童顔で身体や手足が細く、女物のパンツを履いているから、今の姿が女の子に見えてくる。
 まぁ胸が全く無いから、ちゃんと男だとは分かっているのだが……っと、ようやくズボンを脱ぎ終えたな。

「じゃあ、最後はパンツだね」
「うん。これならさっきのズボンよりは簡単そ……」

 って、何故かセシルが俺の方を見ながら固まってしまった。
 俺が先に全裸になったからか?
 先に一緒にお風呂へ入ろうって言ったのはセシルなのに、裸の付き合いを恥ずかしがられても困るのだが。

「ほら、セシル。手が止まっているよ」
「え? あ、うん……ぬ、脱ぐね」

 流石に少年の全裸を見る趣味は無いので、背を向けて待って居ると、恐る恐ると言った感じでセシルが声を掛けてきた。

「お、お兄さん。ぜ、全部脱げた……よ?」
「次は身体の洗い方だね。じゃあ、浴室へ……ぇぇぇっ!?」

 視界の隅にチラっと映ったセシルの身体を見て、思わず二度見してしまった。
 ……いや、二度も見ちゃいけないんだろうけど、でも自分の目を疑ってしまい、しっかりと確認して、絞りだすようにして声を出す。

「セ、セシルって……その、お、女の子だったのか?」
「え? うん。そうなんだけど……お兄さん。それって、何なの? いつも一緒にお風呂へ入って居た女の子にも、ボクにもそんなの無いよ?」

 それ……ね。
 全てを察した俺は、先ずはセシルに深々と頭を下る。

「セシル、ごめん。今日は、やっぱり一人でお風呂に入って」
「え? でも、お風呂の入り方を教えてくれるって……」
「うん。本当にごめん。心の底から悪いと思っているんだ。だけど、今日は少し事情が変わったんだ」
「えぇー。じゃあ、明日は?」
「……ちょっとアーニャと相談するよ」
「……アーニャと? まぁいっか。じゃあ、行ってくるねー」

 セシルが浴室へ入ったので、その扉を閉めると、大急ぎで着替えて脱衣所を出た。

「やらかしたぁぁぁっ!」

 よく考えたら、筋肉が少ないとか、小食だとか、身体が細い割にお尻が膨らんで居たとか、気付けるポイントは幾つかあったのに。
 まさかセシルが貴族の息子ではなく、貴族令嬢だったなんて!
 これ、日本だったら即捕まってるよ! 事案になってるやつだよっ!
 廊下で頭を抱えていると、どうしたんですか? と、アーニャがやってきた。

「あ、あのさ。アーニャはセシルって男の子か女の子かって、どっちだと思う?」
「え? どこからどう見ても女の子ですけど」
「マジか。そうなのかぁぁぁっ!」
「……まさか、男の子だと思っていたんですか!?」
「うん。出会ってから、ずーっと男の子だと思ってた」
「えぇー。あんなに可愛いのに」

 アーニャが呆れたようにジト目で俺を見てくる。
 そんな事言われたって、髪の毛が首元までしかないし、胸も無いし、分からないよっ!
 せめてスカートだったら、俺だって女の子だって気付いたのにっ!

「まぁでも、仕方ないですね。種族が違うと、そういう事も分かり辛いかもしれませんし」
「種族が違うって?」
「え? だってリュージさんは人族ですよね?」
「う、うん。もちろん」
「セシルさんはエルフですよ? ……って、まさかそこからですか!?」

 セシルがエルフで女の子だって!?
 どうやら俺は、とことん異世界の事が分かっていなかったみたいだ。