「なるほど。セシル様なら森が使えますね」
「うん。そういう事だよ」

 トーマスさんとセシルがよく分からない話をした後、ギルドを出る。

「遠回りするよりかは早く目的地へ着けるけど、二人共少し歩いても大丈夫?」
「あぁ。疲れたら家を出して休めるしね」
「私は獣人族なので、平気です」

 アーニャは体力に自信があるみたいだけど、俺は日本でデスクワークばっかりだったし、趣味もゲームやラノベだからあまり体力は無い。
 後で時間があったら、体力が上がるポーションが作れないか試してみよう。

「じゃあ、二人とも大丈夫って事だけど、念の為、食料を買っておこうよ」
「念のため……って、セシル。どういう方法で次の街へ行くんだ? どうやら歩いて行くようだけど、街道は通れないぞ?」
「簡単に説明すると、この先の大きな森を迂回するように街道が作られているから、森の中を突っ切るんだ」
「なるほど。街道を通らないから道が塞がれて居ても関係ないし、おまけに最短距離で移動出来るという訳か」

 悪くはない策だ……森の中を迷わずに通り抜けられるなら。

「セシル。森の中を通るって、大丈夫なのか?」
「うん! 絶対に大丈夫」

 セシルが自信満々だけど、この辺りを通った事があるか?
 もしかしてセシルの家の領地とか?
 だったら、商人ギルドの対応も分からないでもない。
 自分の村を治める領主の息子が来たら、それなりの対応をするだろう。

「じゃあ食料を買い込んだら出発だ」

 アーニャに選んでもらって七日間分の食料を購入すると、街の外で城魔法を使って食材を冷蔵庫へ入れ、ついでにお昼ご飯を作ってもらう。

「おぉ、美味しい!」
「ありがとうございます。料理は良く作っていたので」

 女の子の手料理って良いな……と、昼食に満足した後は、後片付と食休みを経て、出発する。
 街道を三人で歩いて行き、途中で薬草を見つけたら程々に摘んで、疲れたら家を出して小休憩をする。
 休憩中はしっかり休めるし、徒歩の旅だけど思っていた程辛くは無く、日が傾いてきた頃に大きな森が見えて来た。

「お兄さん。あれが例の森だよ。ここから街道が大きく右に曲がるけど、ボクたちは真っすぐ行こう」

 街道の先に目を向けると、かなり大きく迂回しているように見える。
 確かに真っ直ぐ行けば時間短縮になるし、途中で通れなくなっているという箇所もすっ飛ばせるだろう……迷わなければ。

「セシル。日も落ちてきたし、今日はここで一泊しないか? 夜の森ってちょっと危なそうだし」
「別に夜でも昼でも森は危なくないんだけど、お兄さんがそう言うなら……」

 森の手前で家を出すと、アーニャが夕食を作り始めたので、俺はセシルと風呂へ入る事にした。

「セシル。いっぱい歩いたし、早めにお風呂へ入ろうか」
「はーい。あ! じゃあ、猫のお姉さんも呼んで、三人で一緒に入ろうよ」
「いや、それはダメだって」
「どうしてダメなの?」

 どうしって……って、それを聞いちゃうの?
 貴族の息子とはいえ、セシルは十二歳くらいだと思う。
 日本であれば男女の違いが分かっていると思うけど、異世界だからか、貴族だからか。回答に困る質問をしてきた。

「アーニャは女の子だから、一緒に入るのは、あんまり良く無いかな」
「そうなの? でもボク、家に居た時は女の子と一緒にお風呂へ入って居たよ? 身体を洗って貰わないといけないし」
「マジで!? 羨ま……いや、何でも無い」

 き、貴族ぅぅぅっ!
 女の子と一緒にお風呂へ入って、身体を洗って貰う!?
 それって所謂ハーレムだよね?
 セシルは自分で身体を拭けなかったり、着替えが出来なかったりだけど、お風呂まで女の子――おそらくメイドさん――に頼っていたとは。
 人肌が恋しいから俺と一緒に寝るって事になったけど、むしろ俺より人肌に触れているのでは!?
 正直、羨ましさしかないけど、これから一緒に旅をするならお風呂くらい一人で入って貰わないと困る。
 一先ず身体の洗い方を教えおうかと思っていると、アーニャがやってきた。

「今日はもうお風呂へ入られるんですか?」
「うん。汗もいっぱいかいたしね。ほら、セシル。行くよ」
「えぇっ!? セシルさんとリュージさんは、一緒にお風呂へ入るんですか!?」
「あぁ。ちょっと行ってくるよ」

 アーニャが物凄く困惑しているけれど、その気持ちも分かる。
 もう少しセシルが幼ければまだしも、既に親と一緒にお風呂へ入る年齢ではないからね。
 何か言いたげなアーニャの視線を余所に、セシルを連れて脱衣所へと移動した。