「私を助けるために、服を脱がせたと……」
「そうなんだよ」

 アーニャの服が脱げた事を、診察スキルのためだと話し、何とか理解してもらえた。
 この世界では、教会に寄付して回復魔法を掛けてもらうかポーションを飲むかの二択しかないので、そもそも医者が何か知らないアーニャへの説明が大変だった。

「俺は、診察と調合で薬を売って世界を回ろうと思うんだ」
「ボクは薬草の知識があるから、調合に使える材料を集めて、お兄さんに渡してるんだー」
「俺は薬の知識はあるけれど、野生の草が薬草か否かの判断が出来ないから、セシルの知識は本当に助かっているよ」

 そう話した後、改めてセシルの紹介をすると、アーニャが困ったように眉をひそめる。

「二人ともお仕事が……でも私は、そんな知識は無いから、家事くらいしか出来ないです」
「家事が出来るの!? もしかして、料理も作れる?」
「家庭で出す分には普通に出来ますけど?」
「それは本当に助かる。俺もセシルも料理は出来ないからさ」
「そうなんですか? 今まで食事はどうされていたんですか?」
「露店で買ったりしてたかな。昨日は野菜炒めを作ったけど」

 改めて考えてみると、中華スープとか醤油とかを使って日本でチャーハンくらいは作っていたけど、そういった物がないこの世界で、同じ様に作れるかと言われたら無理だな。
 昨日の野菜炒めだって、味付けは塩だけだったし。

「では、全力で家事をするので、どうか私を連れていってください!」
「こちらこそよろしくね。見ての通り寝る場所はあるから、食事さえ確保出来ればどこにでも行けるよ」
「見ての通り……って、ここはリュージさんのお家ですよね? でしたら、旅に出ると戻って来れないのでは?」
「確かにここは俺の家なんだけど、スキルでどこにでも呼べる家なんだ」
「……はい?」
「見た方が早いかな。ついて来て」

 バイタル・ポーションを使い、病み上がりから健康状態になったアーニャを連れて家から出ると、

「変わった形のお家ですね」
「あぁ、俺の故郷の家……いや、その話は置いといて、よく見ててね」

 パタンと扉を閉めると、光に包まれて家が消える。

「えぇぇっ!?」
「もう一度見ていてね。今度はこっちで……サモン」

 俺の言葉で、少し位置と向きが変わった状態で家が現れた。

「スキルで家を呼び出せるから、どこでも安全に眠れるよ」
「す、凄いです」

 説明が終わったので二階のリビングへ移動すると、セシルがソファでラノベを読んでいる。

「そういえば、セシルが家の中に居るまま家を消しちゃったけど、大丈夫だった?」
「別に何も無かったよ?」
「そっか。でも、次からは外へ出る時に声をかけるね」

 薬草を入れたりしていたから問題ないとは思っていたけれど、中に誰かが残って家を消したのは初めてだったな。
 何事も無くて良かったけど、気を付けないと。
 一人で反省していると、アーニャがキッチンを見て声を上げる。

「リュージさん! 炊飯器があるじゃないですか! こっちはコンロがある! しかも、お魚が焼けるグリル付き! 物凄くキッチンに凝ってますね!」
「……あ、うん。どうせなら美味しい料理が食べたいからね……俺は作れないけど」
「私の家よりも、調理器具が沢山……包丁も数種類あるんですね」

 母さんが料理好きだったから、フォークだけでも数種類あるし、和食器も洋食器も結構な数がある。
 俺は持て余していたけれど、アーニャならしっかり活用出来そうだな。

「キッチンの確認も兼ねて、簡単にお昼ご飯の下ごしらえをしても良いですか?」
「もちろん。食材は昨日沢山買ったから、冷蔵庫にあるものは何でも使って良いからさ。もちろん調味料も」
「……調味料? まさか塩ですか?」
「うん。塩はそっちで、砂糖はこっち。あと胡椒がそこにあるね」

 残念ながら、味噌や醤油が良く分からない白い液体に変わっている。
 アーニャなら分かるのかな?

「塩はまだしも、砂糖に胡椒って……リュージさんは貴族なんですか!?」
「貴族!? 俺は貴族じゃないけど、ストックだってあるはずだから、気にせず使って良いからね」

 この世界で調味料は貴重なのか。
 一先ずアーニャの作業を見学していると、見事に野菜を切っている。
 中学生でこの手際は素晴らしいな。

「凄いね、アーニャ。その歳で、そんなにテキパキ動けるなんて」
「そっか。こっちは獣人族が珍しいんでしたっけ」
「そうだけど、どうかしたの?」
「いえ、私は幼く見えるのかもしれませんが、これでも二十歳ですから。人間より寿命が長いので、成長がゆっくりなんです」

 マジか。
 十三歳くらいだと思っていたアーニャが二十歳……やっぱりここは異世界で、日本の常識は通じないみたいだ。