翌朝。カーテンの隙間から入り込む朝日で目が覚める。
 久しぶりに実家のベッドで眠ったからか、それとも空気が旨いからか、やけに寝心地が良かった。
 まるで人肌に触れているような、柔らかくて温かさを感じていたのだが、異世界へ来てベッドの質が上がったのだろうか。

「って、今も何か触れてる?」

 下半身に何かが触れている気がして、毛布を剥がしてみると、何故かセシルが眠っていた。

「なんでだよ。セシル……朝だよ」
「んー。お兄さん、おはよー」
「おはよう。で、どうしてこんな所で寝ていたんだ?」
「あはは。いつもは一人で寝てたけど、人の温もりを知っちゃうとねー」

 その言い方だと、誰かと一緒に寝た事がないように聞こえるんだが。
 流石に今の年齢では無いだろうけど、幼い頃は親と一緒に寝るよね?
 でも貴族の息子だから、両親の温もりを知らずに育ったとか!?
 それは……悲し過ぎる!

「分かった。これから俺と一緒に寝る?」
「いいの!?」
「あぁ。お風呂も一緒に入ろうか」
「やったぁ! お兄さん、ありがとう!」

 セシルが大喜びで抱きつくから、父親になったみたいだ。

「とりあえず朝食にしようか。先ずは着替え……これも少しずつ自分で出来るようになろうな」
「えー。それはお兄さんにしてもらいたいなー」
「それは少し甘え過ぎかな。とはいえ、ゆっくり覚えていけば良いさ」

 手早く着替えを済ませると、セシルの着替えを手伝う。
 手伝うと言っても、セシルは立ってされるがままになっているだけだが。
 それからリビングへ移動し、二人で朝ごはんを食べていると、

「お兄さん、伏せてっ!」

 突然セシルが叫び、訳が分からないままテーブルの下へ潜り込むと、家全体が大きく揺れる。

「地震か!?」
「ううん。何かは分からないけど、家に大きな魔力がぶつかったみたい」

 異世界とか魔力とか、正直良く分からないけど、家が壊れて無ければ良いのだが。
 一先ず家の外を確認しようと思い、玄関から外へ。
 扉を閉めず、開けっぱなしにして周囲を見て回ると、中学生くらいの少女が倒れてた。

「大丈夫か?」
「……ぅぅ」

 セシルの時と違って物凄く苦しそうだし、寝ている訳ではないだろう。

「そうだ、診察だ!」

 動かしても大丈夫だろうか。
 けど、クリニックへ運び込めば、お医者さんごっこスキルで助けられるかもしれない。

「セシル! 扉を閉めずに来て! 女の子が倒れているんだ!」
「これは……お兄さん! この子、何か強力な魔法の呪いを受けているよ!」
「呪い!? いや、それより中へ運ぼう。手伝って!」

 女の子を慎重にクリニックのベッドへ寝かすと、急いで聴診器を手に取る。
 緊急事態だからとワンピースを少し脱がし、胸に手を当て、

「診察!」

『診察Lv1
 状態:七日呪い』

 現れた銀色の枠を見ると、七日呪いという状態が表示されていた。

「セシル! 七日呪いって何!?」
「ごめん、聞いた事も無いよ」

 七日呪いって何なんだ!?

「調べてくるから、この子を看てて!」

 セシルの返事も待たずに調剤室へ。
 あの呪いが何かは分からないけど、調剤室には大量の薬草がある。
 一つくらい、呪いを解く薬草があるはずだっ!

「鑑定!」
「鑑定!」
「鑑定!」

 得たばかりの新たなスキルで、調剤室にある薬草を片っ端から調べる。
 今の鑑定レベルでは薬草の名前しか分からないけど、時々貼られたラベルと違う名前の薬草もあるし、それらしい名前の薬草があるはずだっ!

「鑑定! 鑑定! 鑑定……」

 だが、草花やポーションの名前が表示されるだけで、解呪草みたいな分かり易い名前の薬草は出て来ないが、

――スキルのレベルが上がりました。お店屋さんごっこ「鑑定」がレベル2になりました――

 唐突に鑑定スキルのレベルが上がったという声が響く。

「鑑定!」

『鑑定Lv2
 ロニセーラ
 Cランク
 解毒効果がある』

 レベルが上がったからか、鑑定に簡単な説明が付与されてる!
 これなら効能が確認出来ると、改めて最初から鑑定をやり直す。
 そして遂に、

『鑑定Lv2
 クレイエルの葉
 Bランク
 浄化効果がある』

 それっぽい薬草を見つけた。
 呪いっていうくらいだから、浄化すれば解呪出来るはず!
 緑色の尖った葉っぱを数枚手にして、すり鉢の中へ入れる。

「調合!」

 何故か無色透明の液体になったが、これを鑑定すると、

『鑑定Lv2
 クリア・ポーション
 Aランク
 解呪効果がある』

 出来た。解呪効果って書いてあるし、きっと治せるはずだっ!
 すり鉢からビンに移し替え、急いで少女の元へ持って行った。