目を覚ました私は、忘れないうちに記憶の内容をメモすることにした。
白い未使用のノートを引っ張り出し、なるべく詳しく見聞きしたことを並べていく。
学級活動での、修学旅行のバスの席決めの場面。女子生徒が猫を拾って来て、それに怯えたシロちゃんが、私の元へ避難してくる場面。
今日の分だけでなく、一昨日の事故のものも書いておく。
事故の内容を書いているときに、ふと思った。
同じクラスであるということは、あのバスに乗っていたということで。
それはつまり……。お調子者の篠崎くんも、担任の先生も、猫を拾った彼女も、みんな……。
いや、考えるのは止めよう。過去のことは、もうどうにもできない。
残念ながら今回も、シロちゃんの本名は分からずじまいだった。そもそも今回の記憶は、情報として有益なことなど、何もないように思える。
いや。一つだけ、わかったことがある。
月守風香の本当の心情だ。
彼女のクラスメイトたちに対する軽蔑の裏側には、羨望が隠れていた。
上手く周りと馴染めない自分に対する苛立ちを、羨望の対象であるはずの彼ら彼女らに向けることで、自分自身の孤独を正当化していた。
思春期の子供にありがちなことかもしれないが、自分の前世ということもあり、私は心配になってしまった。
心配などしなくても、月守風香はすでにこの世にいないのだと気づいて、また少し気持ちが沈んだ。
加えて一つ、疑問点が出てきた。
シロちゃんの顔が思い出せないのは前回もそうだったのだが、他の人の顔は思い出せるのだ。篠崎くんの楽しそうな顔、猫を抱いた女子の得意げな顔。
そして――あれ? 担任の先生の顔を思い出そうとしたところ、シロちゃんと同じように、もやがかかって思い出せない。思い出せる人間と、そうじゃない人間に、何かそれぞれ共通しているものがあるのだろうか。
弓槻くんに相談することが一つ増えた。