四月八日。桜が舞い落ちる薄紅色の風景の中、私は真新しい制服に身を包んで歩いていた。
空気も景色も気持ちも、全てが新鮮だった。今日から高校生活がスタートする。
クラス分けの大きな紙が昇降口の前に張り出されている。私は自分の名前を確認して、人の流れに沿って校舎へと入った。
私と同じ一年生であるにもかかわらず、仲良く話している生徒もちらほら見える。中学校が一緒の友人だったり、塾での知り合いだったりするのだろう。
私も、同じ中学から進学した同級生は何人か知っているけれど、その全員が、面識のない人か事務的な会話しかしたことのない人だった。塾にも通っていなかったため、人間関係は高校入学でリセットされたと言って差し支えない。
新しい環境への期待と不安が入り混じった複雑な心境で、教室へと向かった。
中学校のものとは比べ物にならないくらい綺麗な体育館で、嶺明高校の入学式は行われた。
校長のあいさつ、国家斉唱、新入生代表の誓いの言葉を終え、教職員のあいさつとなった。私たちの学年を担当する教員が一人ずつ、自己紹介と簡単なあいさつをする。
教員は十人を超え、このときはまだ、顔と名前は一致しなかった。
そのうちの一人、比較的若い男性が壇上で話しているのをボーッと聞いていた最中、彼といきなり目が合った。
その瞬間、心臓が跳ねた気がした。
彼はすぐに目を反らして、何事もなかったかのようにそのまま話し続けた。
数秒前に聞いたはずの名前はもう頭から抜け落ちていて、数学の教師だということしかわからなかった。
心臓が速くなったのは、単に目が合って驚いただけだと思う。もしくは、気のせいなのだろう。目が合ったことも、ドキッとしたことも。
このときの出来事は、新一年生特有のせわしなさに追いやられて、すぐに忘れてしまった。